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アパレルビジネスの「一丁目一番地」は企画力か?将来AIで対応可能になる決定的な理由

私が主催している研究会で、隔週にわたり有志や企業派遣の人員により、熱い議論が繰り広げられている。その中で、おもしろいディベートがあったのでご紹介したい。いわゆる、アパレル・ビジネスの競争力の「一丁目一番」はどこにあるのか、という議論だ。そこから発展して、アパレル・ビジネスの強みを特定した上で、その強みは将来、テクノロジーによって再現可能になるのか否かについて考察してみたいと思う。

scyther5/istock

多様化する消費者の嗜好

 私たち40代以降の世代では、大晦日には家族が集い、八代亜紀の「雨の慕情」やピンクレディーのヒット曲を年代、嗜好性に関係なく全員がTVで見ていたものだった。おおよそ日本人であればレコード大賞から紅白歌合戦という流れで皆が見ていたし、翌日は皆が同じ話題を語っていたように思う。

 しかし、今は家族がそれぞれスマホをもって、尺が長くなったYouTubeNetflixで、バラバラに好きな番組を観るし、皆がBluetoothのイヤホンをつけ好きな音楽を聴く。AIが、その人の嗜好性を分析し個人の好みの音楽を流してくれる。私が、最近驚いたのは、「家族で軽井沢へ行こう」と言ったところ、Z世代の娘達はググる(すでに死語となっている)ことをせず、アプリを立ち上げ、インスタで、「#(ハッシュタグ)軽井沢」で調べるのだ。

  以前私は、「Shein(シーイン、中国の急成長企業)を知っている人、手を上げて」と問えば、Z世代はみな手を上げるのに、(私を含め)大人達は全く知らない、という奇妙な現象は、デジタル化によるナローキャスティング(ターゲットだけをめがけ突き刺す)がなせる技だと説明した。私たちの一挙手一投足はデータ化され、そのフットプリント(足跡)は追いかけら分析されているわけだ。もはや、家族がお茶の間に揃い、みなで歌謡曲を聴くという昭和の風物詩は過去の遺物となってしまい、個人がバラバラに個人の嗜好を追求しバーチャル空間で繋がってゆく。こういう時代に、日本の文化は、というような言葉さえ死語になる気がしてならない。

 こうしたパーソナライズは、マーケティングをより複雑に、そして、よりマルチにしてゆき、過去のように「来年のトレンドは」ということが、「誰に対して」、「何を訴求したいのか」ということをハッキリしなければものが売れない時代になってきたように思う。

一丁目一番地はビジネスモデルか企画力か

 話を「アパレル・ビジネスの一丁目一番地はどこか」という議論に戻す。ある人は「企画力」だと言い、ある人は「ビジネスモデル」だという。例えば、私は職業柄リスクマネーを扱う投資ファンドとアパレル企業の初期的強み・弱みについて討議をすることがある。投資ファンドは、まず有識者に話を聞いて「あたり」をつけ、その後、必要であれば調査を行い、投資を前に進めるということになると企業価値算定(デューディリジェンス)にプロセスを進める。

 こうした議論や調査の中で、もっとも難しいのは、そのアパレル企業が持つ「強み・競争力」といえるものが、ビジネスモデルに起因するものなのか、企画力に起因するものなのか、という論点なのだ

 なぜ難しいかといえば、ある同一購買特性を持つ母集団(クラスター)にとって、信じがたいほどの引きの強さをもつ「デザイン」や「ブランド力」の破壊力は凄まじいという事実があるからだ。そうなると、次に求められる問いは、「企画力」が当該企業の「強み・競争力」だった場合、その「企画力」はいかに生まれるのかという説明である。この説明が難しい。

一丁目一番地は企画力である

 アパレル・ビジネスの一丁目一番地、「企画力」について述べたが、私たちコンサルタントが分析結果としてなかなか言いがたいのは、「ようは、天才デザイナーがいるからこの企業は強いんですよ」という文句である。これは、まじめに企業分析をしている人に対してあまりに無責任な説明なのだ。

  しかし、現実はそうだし、そうとしか説明がつかないことが多い。

  多くの強い企業を見ていると、「組織は戦略に依存する」という有名な言葉があるように、ビジネスモデルも「強い企画力」があるから、自然発生的に形つくられる(企業文化になる)ように思う。つまり、「ビジネスモデル」と「企画力」には依存関係があり、「強い企画力」なくビジネスモデルを真似ても同じ競争力は得られないし、単に「売れない商品」を最新のデジタル技術で販売しているに過ぎないことになる。つまり、アパレル・ビジネスの一丁目一番地は「企画力」であると結論づけられるわけだ。

  しかし、それでは、その「企画力」はどこからくるのか、という話となると、なかなかそのメカニズムを解明するのは難しい。「ようは個人の力だ」と現実解とおぼしきことを言えば、「そんな危険な企業には投資はできない」、あるいは「それならば、天才デザイナーを雇えばいいのか」と言われてしまう。だから、有識者やコンサルタントは、古くはSPA(製造小売)、最近ではD2C(ディレクト・トゥ・コンシューマ)、OMO(オンラインとオフラインの融合)、などビジネスモデル論から競争力を説明するわけだ。しかし、それは因果関係が逆で、その企業の競争力の本質を語るものではない。

 

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クリエーションのメカニズムとAIによるクリエーションが可能になる理由

Goran Jakus Photography/istock

 以前、ある講演会で「AIで自動でデザイン画を描いてもらうことは可能か」などという質問をしている人を見た。私は、どうもその質問が頭にひっかかり、来る日も来る日もグルグル同じ質問が回っていた。

 私には、確信にまでには至っていないがおそらくこうではないか、という仮説がある。それは、海外のトップメゾンと呼ばれるスーパーブランドをデザインする世界的デザイナーは、「01」の企画、つまり、これまでにない革新的デザインを創り上げているも、それ以外のファッション・アパレル企業は、「11.1、1→1.5」というように、このような革新的デザインをベースにしながら振れ幅には違いはあれど、カスタマイズして上塗りしているのではないか、ということだ。

 仮にそうだとしたら、パリやミラノ、ニューヨークなどのコレクションで発表される、複数ある革新的デザインを「0から1のクリエーション」(と呼ぶこととする)をベースとして選択し、振れ幅をパラメータ化すれば、理屈上では、AIでも独自性のある「企画」を作ることができる時代が来るかも知れない。しかし、これは恐ろしい仮説だ。ならば、人は一体何をするのか、ということが頭をもたげるからだ。

  まとめよう。今回述べたかったのは、私たちはビジネスモデル論から競争力を説明しがちだが、やはり消費者起点からしてみれば「企画力」が購買要因である。巨大外資アパレルの多くは、人によるバラツキや経営の不確実性をなくすため、データベースで流行服のデザインを真似ている。その一方で、日本の中価格帯アパレル企業の「企画力」は、クリエイターやデザイナーの属人性が主流であるのは、単なる流行の「パクリ」が通用しないぐらい完成度が高いからではないかと思う。

  しかし、アパレルをビジネスとして成立させるためには、ベースとなる革新的デザインの影響を受け、そこからのさじ加減が微妙だから属人性から抜け出せなくとも、将来はAIによるデジタル企画も不可能ではないのではないかということ。そして、こうした時代が来たとき、冒頭に述べた緻密なナローキャスティングによるターゲットのパーソナライズによるマルチ化、複雑化と相まって、アパレル企業は相当なテック企業になるのではないか、ということだ。デジタル化というと、生産性の向上が取り沙汰されているが、このように考えれば、デジタルを活用した「競争力強化」の時代に入るのかもしれない。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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