世界100ヶ国以上に展開し、2010年以降順調に出荷台数を伸ばしているG-SHOCK(Gショック)。さまざまなキャラクターやアーティスト、アートなどとコラボするコラボモデルに定評があり、多くのヒット商品を生み出している。カシオ計算機(東京都/樫尾和宏社長)の時計マーケティング部 部長の上間卓氏に、時計市場の動向やマーケティング戦略について聞いた。
40万円を超えるG-SHOCKの高級ラインが、富裕層に人気
長く続いたコロナ禍によって、時計市場にはどのような変化が起きているのだろうか。
「コロナ禍で外出する機会が減り、売上は一時伸び悩んだ。しかし、世界的に高級時計の売上が非常に伸びている。その流れが日本にも来ていることは確か。Gショックは1万~50万円と幅広い価格帯で展開しているが、30〜40万円以上の商品が中心の『MR-G』シリーズは好調な売れ行きだ」と、時計マーケティング部部長の上間卓氏は語る。
MR-GはGショックの最上級ラインであり、1996年に誕生して以来、素材やデザイン、技術を変えて進化し続けている。2022年3月に発売した「MRG-B5000(MR-G最新モデル)」は、発売依頼好調な売れ行きだという。購入者は、コアなファンをはじめ、高級時計を購入するような富裕層も含まれる。「富裕層は1,000万円クラスの腕時計を持っているが、そうした時計に傷をつけたくないため日常使いしにくいという声も聞かれる。Gショックに対しては、耐久性など品質への信頼感に加えて、素材へのこだわりも評価いただき、中でも高級ラインが良いと感じられているようだ。」
また、時計市場ではスマートウォッチの台頭が目覚ましい。スマートウォッチについては、どのようにとらえているのだろうか。
「スマートウォッチは、ウォッチと言いながらスマホと連動するギアという要素が強い。一方、時計はファッション性や装飾性の要素が強いので、立ち位置が違うと考えている。とはいえ、独自OSのスマート機能をもったモデルも出している」(同)
コラボモデルの販売により、幅広いターゲットにリーチ
一般的に、ブランドのマーケティング戦略はピンポイントにターゲットを定めることが多いが、Gショックの顧客層は10~50代の男女と非常に幅広い。この顧客層の広さはマーケティング戦略にも反映されている。
「ファン層が広いため、スポーツやファッション、音楽、アートなど、さまざまなカルチャーを常に注視している。具体的には、コラボモデルを通したマーケティングコミュニケーションを何十年も続けている。最近ではジャパンカルチャーという意味で、アニメやeスポーツなどのジャンルなどともコラボレーションしている」(上間氏)
最近で売れ行きがよかったのは、ロボットキャラクター「トランスフォーマー」と人気漫画「ワンピース」とのコラボレーションモデル。直近では、ルービックキューブやFCバルセロナのモデルなどを発表している。
コラボ先は、Gショックから提案することもあれば、相手側から提案がくることも。いずれの場合も、ブランド戦略に合うコラボ先であるかを重視して選定しているという。コラボモデルは数量限定で販売し、数量はコラボ先と協議して決めている。
ファッションとのコーディネート提案により、ECも好調
ECに注力する企業が増えているが、Gショックではどのように考えているのだろうか。
「コロナ禍において、世界的にはECからの購入が増えているが、日本はまだまだ遅れている状況。また、ECとリアル店舗は両立すると考えており、ECはファンのコミュニティを作る意味合いが強い」(上間氏)
ECサイトのコンテンツとして展開しているのが、直営店舗スタッフが時計をつけて洋服とコーディネートしている「G-SNAP」だ。そのコーディネートを見てECサイトで購入する顧客も多い。
Gショックといえば、耐久性が高いことからスポーツでの使用をイメージするかもしれないが、実際はカジュアルな場面で日常的に使用されることの方が多いという。「当初、店舗スタッフのコーディネートに効果があるだろうかと思っていたが、等身大だからこそ、自分がつけている様子をイメージでき、共感しやすいようだ」
また、ECと店舗では、顧客の年齢層に違いがみられるという。「30歳以上はGショックをある程度知っているため、ECサイトでの購入が多い。一方、若い世代はGショックをあまり知らない人が多く、店舗で実物を見てから買う人が多い。若い人こそECで購入すると考えていたので興味深い」(同)
Gショックは1990年代後半に若者の間で爆発的なブームが起きた。1995年から97年にかけての出荷台数は、国内外合わせて3倍(200万本から600万本)に。現在その層は40歳を過ぎているが、一部はなおコアなファンとして根付いている。新しい限定品が出るたびに揃えたり、自分の子どもに購入する機会も増えているのだという。2021年までの累計出荷数は、1億4千万本を超えた。
幅広い年齢層のターゲットが存在するため、SNSの訴求も年齢層によって変えている。「Facebookは高めの年齢層をターゲットにして、プロダクトに関する投稿を行っている。Instagramは30歳前後に向けて、ファッションを取り入れたコミュニケーション。TikTokは若い人向けに認知を取るという戦略だ。制作はすべて社内で行っている」(同)。Facebookページのフォロワーはグローバルで1000万人を超え、時計業界ではNo.1なのだという。
全方位のアプローチでグローバル展開を加速させる
男性に人気というイメージが強いGショックだが、最近は女性のファン獲得にも注力している。
「日本の場合、Gショックは男性、BABY-Gは女性向けというコンセプトでやってきた。しかし、BABY-Gという名前は、欧米では子ども向けの印象になる。さらに、Gショックの購買層の10%は女性でもある。昨今のユニセックスの流れもあり、今後はGショックでサイズ展開を行い、男女どちらでも使えるブランドというアプローチをしていく」(上間氏)この展開はすでに昨年から欧米で始まり、日本でも本格的に開始予定だ。
また、Gショックは日本のみならず世界100ヶ国以上で展開し、出荷台数は2010年以降伸びている。世界的な人気のきっかけとなったのが「SHOCK THE WORLD」という周年イベントだ。
「『SHOCK THE WORLD』は25周年から開催している周年イベントで、グローバルで企画している。過去には、ニューヨークのイベントに、ヒップホップスターのエミネムを招いたこともある」(同)。来年の40周年に向けての企画も進めている。
「これからはさらに、アメリカや中国の富裕層向けのマーケティングも進めていく。若者からコアなファンまで、幅広いターゲット層にいつまでも支持されるブランドであり続けるため、全方位のアプローチを今後も続けていきたい」(同)