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進化を続ける仏具業界 トップ企業はせがわが推進するカジュアル化&DX化とその可能性

「お仏壇のはせがわ」のコーポレートコピーで知られるはせがわ(東京都/新貝三四郎社長)。仏壇・仏具を含む宗教用具小売業界の市場規模は減少している。そうしたなか、業界のリーディングカンパニーであるはせがわはどのように生き残ろうとしているのか?

仏壇専門から墓石、寺院内装工事まで

まずははせがわの直近業績を確認したい。はせがわの20223月期決算は、売上高が1979200万円(前期比11.0%増)、営業利益は13400万円(前期比20.9%増)、経常利益は123300万円(前期比13.4%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は7700万円(前期比228.0%増)だった。

セグメント別でみると、仏壇仏具の売上高は1425700万円(前期比11.3%増)、墓石の売上高は424000万円(前期比7.8%増)、屋内墓苑は、売上高53300万円(前期比8.7%減)、飲食・食品・雑貨は、売上高1600万円(前期比53.4%増)、その他が売上高68600万円(前期比48.5%増)だった。

長谷川仏具店として創業され、もともとは仏壇専門店だったはせがわ。その後、墓石、屋内墓苑も扱うようになり、グループ会社で文化財の保存修復や寺院の内装工事を手がけるに至っている。

同社を躍進させた2代目の長谷川裕一氏が、地元での炭鉱爆破という痛ましい事故の直後に遺族に仏具販売を勧め、「人の不幸で金儲けするのか」と企業側に激怒されながら、「こういう時だからこそ供養することが大切」と切り返し、最終的に納得してもらったというエピソードは有名だ。

故人を供養することが事業ドメイン。それだけに、小売といっても事業の推進にはいっそうの慎重さが求められる。そこを補完するのが、供養の大切さを継承し続ける使命感に根ざした情熱と信念だ。

20226月にはスマホアプリをリリース

同社は202112月に公式ホームページをリニューアル。併せて自社ECサイトをオープンした。扱う商品こそ仏具だが、サイトの仕様はいわゆるECサイトそのもの。スマホにも最適化しており、ユーザーと仏具の距離が大きく縮まった印象がある。

20226月には公式アプリをリリース。会員割引、法要・仏事関連の情報発信、セールやクーポンの通知など、より利便性を高めている。「仏具店」といえば、ロードサイドにあり、敷居が高いイメージだったが、そこからは想像もつかないほど、仏具・神具を身近でカジュアルにしている。

公式ホームページ上での問い合わせや来店予約を、AIチャットボットが担っているというのも隔世の感がある。DX推進にも積極的なのだ。

店舗はスタイルや商品をカジュアル化

もちろん、あくまでもリアル店舗が重要な販売拠点であることに変わりはない。環境の変化に合わせながら、そのスタイルを深化させ続けている。

例えば、「リビングスタイル店」と呼ばれる店舗は「ともに生きているようなご供養へ。」をコンセプトとし、マンションや様式が主流の現代の住空間に合わせた仏具等を扱い、店舗もライトなイメージとなっている。

「こころのアトリエ」と呼ばれる店舗は、「アイラブユーは、かたちにできる。」がコンセプト。供養を究極の愛情とし、それを実践するためのよりライトな供養グッズを扱うなどで、新しいライフスタイルを提案する拠点として、店舗作りにも工夫が凝らされている。 

激変する仏具業界の周辺環境

こうしたドラスティックな深化は、裏を返せば宗教用具関連業界が生活様式や価値観の変化という激流に見舞われていることへの危機感の現れでもある。実際、同社も「購入商品の小型化・簡素化、さらにはそれに伴う単価下落の傾向などが継続している」と市場の縮小を感じ取っている。

供養のあり方も変質しつつある。伝統的な形式に縛られない『自分らしい』供養を求める声も増加傾向にあり、多様化が進む。昨今は、樹木葬・合葬墓・海洋葬など埋葬ニーズも多種多様になっており、同社でもそうした遺骨供養に関するソリューションの提案にも乗り出している。

大胆な挑戦で未来の供養のカタチへコミット

モノや食品等とは異なり、精神も重要な要素として外せない事業ドメイン。日本人にとって、供養の大切さが不変だとすれば、同社にとって価値観や生活様式の変化に敏感であり、より顧客本位の商品・サービスを開発・提供し続けることは、伝統継承のための重要ミッションであり、経営課題そのものということになる。

大々的なCMで認知度を向上させ、業界で初めて東証一部に上場を果たすなど、業界トップとして、宗教用具関連業界の常識を壊しながら成長を遂げてきた同社。超高齢化の一方で、加速する宗教離れという相反する状況の中で、どんな一手でこの難局からブレイクスルーを果たすのか、注目だ。