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「売らない店」にノー? 高島屋のショールーミングストアが“販売”にこだわる納得の理由

百貨店業界で、主にD2Cブランドを取り扱い、店頭での販売は行わない「ショールーミングストア」への参入の動きが相次いでいる。丸井グループは店舗の「売らない店」化を急ピッチで進めており、大丸松坂屋百貨店は202110月にショールーミングスペース「明日見世(あすみせ)」をオープンした。

その中で、新たに百貨店発のショールーミングストアが誕生した。2022429日、新宿高島屋にオープンした「Meetz STORE(ミーツストア)」だ。通常のショールーミングストアとは異なり、Meetz STOREではあえて販売スタッフを配置した「売る店」で攻勢をかける。その真意とは? 運営会社の「タカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマース」(TTIC/本社シンガポール)マネージングダイレクター兼CEOの川口貴明氏に話を聞いた。

リアル店舗だけでなく専用のオンラインストアも開設

5名の目利きマスター

 新宿高島屋2階、メイン入口近くの一角にオープンした「Meetz STORE(ミーツストア)」。約80㎡の店内には、新興のD2Cブランドを中心に60ものブランドが所せましと並ぶ。日本初上陸となる韓国の子ども服ブランド「レベクレ」やタイ王室御用達「サイアム・ピワット社」のプライベートブランドなど、国内ブランドにとどまらない個性的なラインナップを揃えた。また、「食・グルメ」「ジェンダーレスなライフスタイル」「ビューティー」「エシカル」「アート&クラフト」の5つのテーマごとに、著名人のキュレーター「目利きマスター」がセレクトしたブランドを紹介するブースも注目を集めている。

 ミーツストアでは、リアル店舗のほかにオンラインストアも同時開設。店頭に表示されたQRコードを読み取ると、ミーツストアのオンラインストアにアクセス、商品を購入できる仕組みだ。オンライン・オフラインの相互連携によって、顧客とギフトとの出会いを演出する「メディア」と位置づけている。

 「こちらはスティックタイプのタオルで、珪藻土の3倍もの吸水量、6倍もの吸水速度があるんです。スマートフォンなどに水滴がついてしまったときもサッと拭き取ることができますよ……」。店頭で商品の説明をしているのは「ギフトコンシェルジュ」と呼ばれる販売スタッフ。来店する顧客から「どんな人に、どんなシーンでギフトを贈りたいのか」など要望をヒアリングし、その要望に沿ったギフトの提案を行う。

 「お客さまのインサイトを引き出しながら、60のブランドの中から商品をセレクトしたり、さまざまな組み合わせを提案することは、リアル店舗だからこそ提供できる価値。店頭で生まれる、ブランドとの偶然の出会いや意外な組み合わせを楽しんでいただきたい」(川口氏)

魅力ある新興ブランドを呼び込むための工夫

オンラインストアの注文画面

 通常のショールーミングストアは、展示機能に特化し在庫を持たない「売らない店」のスタイルが一般的だ。これはブランドから出展料をもらい、店頭でスタッフが来店客に説明、ブランドと顧客の接点をつくるほか、商品についての定量・定性データを出展企業に提供するというビジネスモデルだ。しかし、ミーツストアは店頭での販売は行わないものの、ギフトコンシェルジュが接客し、専用のオンラインストアで販売も行う、言わば「売る店」だ。

 在庫管理については、運営会社のTTICが各ブランドから一定数の在庫を預かり、受注から発送まで行うスキームを採用した。店頭に在庫を持つ必要がなく、出店するブランドに商品の保管や出荷にかかるコストを負わせない配慮だ。D2Cなど新興ブランドが大半なだけに、出店のハードルを極力下げ、魅力ある新興ブランドを呼び込みたいねらいがある。

 また、ブランド側にとっての出店動機を高めるために力を入れているのが、店頭でのデータ収集機能だ。店内には4台のAIカメラを搭載。顧客の動線や行動に関するデータを収集・蓄積することができる。

 しかし、これらの定量データだけでなく、「ギフトコンシェルジュの接客を通じた定性データこそが重要」と川口氏は力を込める「お客さまの奥にあるインサイトをどう引き出すかがギフトコンシェルジュの重要なミッション。この、店頭で得られるインサイトは各ブランドにとっても大きな価値になる」

 「一般的にD2Cブランドは、大手企業に比べて商品化までのサイクルが短い」と川口氏。ミーツストアの店頭で得られた定量・定性データを、その商品化サイクルに適時フィードバックしていくことで、顧客ニーズをとらえた商品をスピーディーに店頭に並べることができる。ここにも、従来の百貨店とは一線を画する「新しい小売り」の形を見ることができる。

D2Cブランドを百貨店で販売?」台湾で見た光景

 このショールーミングストア事業への参入は、百貨店業界の中では後発に思えるが、「実はコロナ禍以前から構想を温めていた」と川口氏は振り返る。「人口減少で国内のパイが縮小しつつある中、従来の来店客を前提にした人を『集める』百貨店ビジネスモデルだけでなく、新しい商品と新しいお客さまとの接点を創出していかなければいけないとの危機感を抱いていた」

 その川口氏が、2019年秋に台湾の百貨店を訪れた際、見たこともないアクセサリーブランドが並んでいるブースに目が留まった。聞くと、それらはすべてD2Cブランドだという。「実店舗を持たず、ネットのみで販売しているブランドばかりを百貨店側が取り扱い、非常に賑わっている。こういう動きが、いずれ世界中の百貨店で起こるだろうという予感を抱いた」(同)

 TTICの社内でも、20代・30代の若手社員に新規事業についてのアイデアを募ったところ、返ってきた回答のほとんどがD2Cブランドだった。「Z世代を中心とする若者に支持されるのはD2Cだ」との確信が徐々に深まっていった。

 その後、2020年に入り、世界中が未曽有のコロナ禍に見舞われる。リアル店舗の営業が制約を受け在庫が滞留する中で、川口氏は、温めていたD2C主体のショールーミングストア構想を実行に移すことを決意。「実店舗と仕入ルートを持つ高島屋の強み、そしてトランスコスモスのデジタルマーケティングとEC事業のノウハウを掛け合わせれば、他にはない魅力を持った店舗ができる」と、パートナーであるトランスコスモス側と連日のようにミーティングを重ね、ミーツストアの実現にこぎ着けた。

百貨店の価値を未来に受け継ぐため「売る店」にこだわる

TTIC マネージングダイレクター兼CEOの川口貴明氏

 高島屋とトランスコスモスの合弁会社として2015年に設立したTTICは、実は海外における販路開拓を担う専門商社として、タイやインドネシア、中国などで日本ブランドの海外展開を後押ししてきた実績がある。直近ではバッグブランド「サマンサタバサ」や「アネロ」の海外展開を支援した。このTTICの海外でのネットワークと実績、昨年事業をスタートさせた越境ECの販売チャネルを活かし、今後はミーツストアで展開する商品を、海外での展開にもつなげていく方針だ。またミーツストア自体の海外展開も計画している。

 「3月のプレスリリースの段階で、ASEAN諸国を中心にミーツストアへの出店やミーツストアの海外展開について複数のお話をいただいている。既に店頭では複数の海外ブランドを展開している」(川口氏)

 また、今後の成長が見込まれるソーシャルギフト市場も取り込んでいく。住所を知らない相手にも、SNSやメールでつながっていれば思い立った時にすぐギフトが贈れるソーシャルギフトは、新しいギフトスタイルとして、20代のZ世代を中心に注目を集め、将来は1兆円規模に成長するとの試算もある。このソーシャルギフトに対応するサービスも、5月16日にローンチした。

 「『ギフト』とは、思いを形にする行為。ギフトの贈り手、受け手、さらに作り手の三者で、その思いが循環するような経済圏を育てていきたい」。川口氏はこう語るとともに「だからこそ、展示だけではお客さまや、出店してくれるブランドに価値を提供できない。リアルとオンラインの双方で、しっかりと『売れるメディア』を作っていきたい」と力を込める。

 店頭での接客を通じて、贈り手、受け手、作り手の三者の思いが循環する「場」― それこそが、長年にわたり百貨店が果たしてきた役割だ。その普遍的な百貨店の価値を未来へと受け継いでいくのも、ミーツストアが単なるショールーム機能にとどまらず「売る店」にこだわった理由なのだろう。これからの「新しい小売」のスタンダードを模索するミーツストアの、今後の動向に注目したい。