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PayPayが肝心要!ヤフー・LINEが「Tポイント外し」で挑む今後の成長戦略とは

Zホールディングス(東京都/川邊健太郎社長Co-CEO)が4月28日に発表した2022年3月期連結決算(IFRS)は、売上収益が1兆5674億円(対前前期比30.0 %増/前期から3615億円増)、営業利益が1895億円(同16.9 %増/同273億円増)、調整後EBITDA※が3314億円(同12.4%増/同366億円増)と増収増益での着地となった。
※同社が営業利益に替えて最も重視する指標。営業利益に減価償却費などを加減算して弾き出す

コマース事業が大幅増収!

 2022年3月期連結決算で増収増益を果たしたZホールディングス。LINE(東京都/出澤剛社長)との経営統合影響のほか、ヤフー(東京都/小澤隆生社長)の広告収入の2ケタ成長が増収につながり、売上収益は過去最高を更新。調整後EBITDAは増収効果が増益につながり、こちらも過去最高を記録した。

 セグメント別状況は、以下のとおり。なお本稿では、ショッピングやリユース、アスクルを含む「コマース事業」と、決済や金融、AIなどからなる「戦略事業」に重点を置いて見ていきたい。

 コマース事業の売上収益は、同8.7%/同648億円増と大幅に増加した。物販、サービス、デジタルを含め「全社e コマース取扱高」は同10.9%増の3兆5788 億円と、2ケタの伸びを示した。

 ちなみにコマース事業は、以下の5つのeコマース関連サービスで構成される。

  1. ショッピング: ZOZOTOWN・Yahoo!ショッピング・ASKUL・PayPayモール・LINEショッピング・LOHACOなどモール系サイト
  2. リユース:ヤフオク!・PayPayフリマ・ZOZOUSEDなどのオークション・フリマ系サイト
  3. アスクル単体 BtoB:ASKUL・SOLOEL・ARENAなどビジネス向けサイト
  4. サービス:Yahoo!トラベル・一休トラベルなど
  5. その他:Yahoo!プレミアム(会員向けサービス)など

 増収にはLINE統合が寄与したほか、「ヤフオク!」「PayPayフリマ」といったリユース事業も伸長。さらに22年1月に立ち上げた食品・日用品の即配サービス「Yahoo!マート」も、出前館(東京都/藤井英雄社長)、アスクル(東京都/吉岡晃社長CEO)、ヤフーとグループ3社の既存ノウハウ(グループアセット)を活用し、好調に推移している。

 一方で、調整後EBITDAは同13.7%減/同207億円減と落ち込んだ。売上・シェア拡大や新サービス育成に向けた先行投資が利益面に影響を及ぼしている。

PayPay急拡大も、今後も投資フェーズ継続か

 戦略事業の売上収益は同32.9%/同287億円増と大幅に増加した。

 PayPayカード・PayPay銀行・LINE証券などの決済・金融関連サービスが中心となる同事業の中で、とくに注目されるのが「PayPay」だ。「PayPayカード」「PayPay銀行」ももちろん伸びているが、伸長著しいのはやはりモバイル決済サービスの「PayPay」だ。18年度に831億円だった取扱高は、わずか3年で60倍以上の5兆4436億円にまで急拡大した。

 一方で、調整後EBITDAは128億円の赤字に終わっている。決済サービスはまだまだ育成途上で、今後もしばらくは成長投資が先行するものと思われる。

 そのほか、「メディア・広告」「検索」などの事業からなるメディア事業の売上収益は、同74.3%増、同2726億円増と大幅に増加した。LINE経営統合に伴う増収効果のほか、広告需要が戻ってきたことなどが寄与した。調整後EBITDAも増収効果により、同63.7%増/同1035億円増と高い伸びとなっている。

今期も増収増益を予想! ZHDの打ち手は?

 2023年3月期の業績予想では、売上収益が対前年度+10.0 %の1兆7240億円、調整後EBITDAが3315億円(同±0.0%)~3400億円(同+2.6%増)と、増収増益をめざす。

 22年3月期に引き続き、各セグメント領域を積極的に注力し、売上・シェアの拡大を優先する。一方で戦略投資を優先するため、利益面の伸びは弱くなる見通しだ。

 さて、中長期の成長加速を確実なものにするべく、Zホールディングスでは3つの取り組むべき課題を掲げている。

 1つ目は、クロスユース(相互利用)の促進とグループ経済圏の拡大だ。同社のグループ経済圏は、3つの事業Yahoo!(月間利用者数:約8600万人)、Pay Pay(累計登録者数:約 4700万人)、LINE(月間利用者数:約 9200万人)が支えている。それぞれの事業が連携を図れば、経済圏をより拡大できる。Tポイント利用・付与を見直し、PayPayポイントにプログラムを絞ったのも、連携強化の一環だ。すでにZホールディングスとソフトバンクは保有するTポイント・ジャパンの全株式を売却済みだと言う報道もなされている。2012年から始まったヤフー(当時の社名)とTポイント・ジャパンの親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブの間の戦略的パートナーシップも、PayPayポイントの急成長と定着をもって役割を終えたという認識だろう。

 Zホールディングスは同時に、「決済」「eコマース」「広告」からなる3つのサービスのクロスユース(相互利用)を促進する。eコマースの取扱高拡大・新規顧客獲得は、決済サービス(PayPayおよびPayPayカード)の利用者増加につながり、決済サービス普及がすすめば、今度は逆にeコマース拡大を促すという好循環が働く。

 つまりクロスユースとグループ経済圏がマトリクスで顧客に働きかけることで、成長加速が図れるというわけだ。

今期は500~700億円の投資を計画!

 2つ目がZ ホールディングスの強みを生かしたコマース事業の拡大だ。圧倒的利用者数を誇るコミュニティサイト(LINE公式アカウント)やPayPayは競合他社に対し優位な立場にある。このほか、「ZOZOTOWN」「出前館」「Yahoo!ショッピング」といったさまざまなグループアセットを活用して新サービスを展開、顧客開拓をめざす。

 具体的には、「Yahoo!マート」の23区内におけるカバー体制確立、「LINEGIFT」の品揃え強化やイベント促進、「My Smart Store」のキーテナント獲得など、多面的に施策を展開する。

 3つ目がPayPay を起点とした決済・金融事業の拡大だ。とくに力を入れているのが、米国ではすっかり定着しつつある「BNPL(Buy Now Pay Later)」、つまり後払いサービスだ。「PayPayあと払い」の累計利用登録者数はすでに100万人を突破、1人あたり単価も増加傾向にある。

 3つの取り組みを進めるために、投資は21年度の220億円から2022年度は500億円~700億円に増加する。投資ウエートはメディア:20、コマース:50、戦略:30となる予定で、今後はメディアでキャッシュを創出してコマースや戦略につぎ込もうという思惑が見てとれる。

 反面、積極的な投資は利益を圧迫する。かつては売上収益営業利益率50%以上を誇った同社だが、近年は10%前半と十分高いものの往時と比べれば物足りない数字となっている。戦略投資が実を結び、トップラインだけでなく利益面でも黄金時代を迎えることができるのか、今後に期待したいところだ。