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メガネの価値を見直し、必需品としての機能最大化に徹したビジョナリーHDにみる小売業の低迷脱却の勘所

メガネチェーン「メガネスーパー」を運営するVHリテールサービスなどを傘下に持つビジョナリーホールディングス(東京都/星﨑尚彦社長)の22年4月期第2四半期決算が21年末に発表された。売上高は130億5200万円(前期比99.2%)、営業利益は4億400万円の赤字だった。上期中に2度の緊急事態宣言が発令され、外出自粛傾向が強まったことなどで来店客数が減少したことなどが影響した。V字回復を続ける中でやや足踏みといえるが、見通しは決して暗くはない。

売上激減の窮地からV字回復

 「眼の健康寿命を延ばすために必要なあらゆる解決策(=商品・サービスやアドバイス)」を提供する企業――。単にメガネを販売するチェーンストアではなく、アイケアを包括的にサポートすることが同社の生命線だ。もっとも2000年前後の同社は、主力の小売チェーン「メガネスーパー」でまさにメガネのスーパーとして、全国に展開する店舗で多様な商品ラインナップのもと、シンプルにメガネを販売するスタイルだった。生活必需品であり、単価も3万円前後が当たり前。それでも安泰だったのだ。

 ところが、1万円を切る価格帯の製品を武器に新規参入組が台頭すると、メガネは低価格がスタンダードになり複数持ちも珍しくなくなる。メガネ相場は従来の半値以下となり、ファッション性にも優れる製品を手軽に購入できるようになったことで、市場が拡大する一方で価格破壊が進行する。こうした安値競争から取り残された同社の業績はみるみる下落。2007年4月期には400億円に迫るほどだった売上高は、2015年4月期にはその半分にも満たない150億円を切るほどに落ち込んだ。
 危機的状況の中で、同社が着眼したのはメガネがもたらす消費者への可能性。そして、再生のキーとして掲げたのが冒頭の方針だ。メガネを売る前に目の状態をチェックし、その着用効果を最大化する。そのためにあらゆるサービスを提供する方針に舵を切ったのだ。

 トータルアイ検査では、その名の通り最新鋭の機器で正確・精緻に視力を多角的にチェック。急ピッチで移行を進める次世代型店舗では夜間の視力検査を行える機器を導入するなど、目に関するトラブルを解消するための体制を妥協なく整備し、安価なメガネチェーンと一線を画した。さらに、目の緊張状態をほぐすためのアイケアリラクゼーションや、完全リモートでの視力検査をサポートするなど、方針に違わず「眼の健康寿命を延ばすために必要なあらゆる解決策」を愚直に提供し、「メガネを買う場所」から「目のトラブルを解消する場所」へと着々と深化の階段を上ってきた。

 同時に、医療機関や製薬会社、IT企業などとも積極的に連携した。さらに補聴器でも同様のサポート体制を整え、メガネの小売の域を超える存在として独自のポジションを確立しつつある。

コロナ禍で低迷もEC、出張サービスを拡充

 コロナ禍では営業時間短縮の影響などもあり業績はやや低迷したが、その間にECや出張サービスを拡充。リアル店舗を拠点としながらも商品・サービスへのアクセシビリティを可能な限り高め、地盤固めに注力した。

 小売業はいま、過渡期にある。大量生産大量消費の時代から価値ある製品、使う意味のある製品にお金を払うという消費者意識の変化に対応できなければ、生き残ることが難しくなりつつある。メガネを単なるレンズではなく、目の健康にかかわる重要アイテムと定義し、それを具現化するために店舗やサービスをとことん深化させた同社が、消費者の信頼を獲得しV字回復を遂げたのは決して偶然ではないだろう。

 歩みを止めない同社は2021年11月、新たな経営理念として「五感の健康寿命を100年に」を掲げた。目と耳の包括サポートから、その対象をさらに五感へ拡大。深化させた収益構造を横展開することで、売上の一層の上積みを図り、次なるステージを駆け上がる。

 小売の繁栄から衰退、そして再生から再飛躍――。同社のこれまでの足跡はそのまま、小売がどうすれば永続的な企業として環境変化に対応しながら消費者に存在価値を提示し続けられるのか、のひとつのモデルケースとして大いに参考にできるだろう。