メニュー

AOKIホールディングス青木彰宏社長が語る、スーツ事業勝ち残り「3つの戦略」とは

コロナ禍でリモートワークが広がった影響などによって、紳士服業界が大きな打撃を蒙っている中、スーツ専門店大手のAOKIホールディングス(神奈川県、以下AOKI HD)は、20223月期第2四半期決算で二ケタ増収を確保するなど気を吐いている。エンターテインメント、ブライダルといった、新たな収益の柱が寄与していることが大きいが、主力のスーツも踏ん張っている。青木彰宏社長は、カジュアルスーツなど新商材の開発、レディススーツの育成を掲げ、厳しさを増すスーツ市場での勝ち残りを目指す(本稿は青木彰宏社長インタビューの前編で、AOKIホールディングスのファッション事業、アニヴェルセル・ブライダル事業の戦略についてまとめました。後編はエンターテイメント事業の戦略が中心となります)。

エンタメやブライダルの回復が支えに

パジャマスーツ

スーツ専門店各社が、コロナ禍で大きなダメージを受けました。そうした中、AOKI HD20213月期では赤字決算を余儀なくされたものの、223月期第2四半期決算では、対前期比11.5%増の二ケタ増収となり、赤字幅も大幅に縮小、通期では最終黒字を見込んでいます。業績が急回復している理由は何でしょうか。

青木 ワクチンの普及などに伴って、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきて、経済活動が復調しつつあるといった環境要因もあるでしょう。加えて、事業のポートフォリオをファッション、エンターテインメント、ブライダルに分けてリスクヘッジし、スーツへの依存度を減らしていることが大きいと考えています。

昨年苦戦を強いられたエンターテインメント、ブライダルが復調したことと、また、ウィズコロナに対応して、グループ各社がビジネスモデルの転換を図ってきたことが奏功しているのでしょう。

2022年3月期第2四半期セグメント別業績(出所:AOKI HD22年3月期第2四半期決算説明会資料より)

ビジネスモデルの転換ということですが、事業のポートフォリオも見直すということでしょうか? そうであれば今後、ポートフォリオはどのように変化するのでしょうか。

青木 22年度3月期業績予想では、売上構成比はファッションが約50%、エンターテインメントが約40%、ブライダルその他が約10%です。今後は、ファッション以外の構成比が増えていくでしょう。

国内スーツ市場は縮小が続いていて、コロナの影響もありますが2020年は前年に比べて売上高が約30%も減っています。しかし、中長期的には下げ止まると見込んでいます。冠婚葬祭やビジネスシーンで、スーツには一定の需要があるからです。スーツは当社のコア事業で、強みのある領域でもあるので、ビジネスモデルを磨き上げてしっかり守っていきます。

一方で、物販以外の「コトビジネス」も強化します。エンターテインメント、ブライダルでも既存ビジネスモデルの磨き上げを行い、さらなる成長につなげていきたいですね。

スーツの競争力を強化する三つの重点施策

AOKI横浜港北総本店レディース売場

次に、コア事業であるスーツ専門店事業についてうかがいます。ウィズコロナ、アフターコロナを見据えて、AOKIのブランド価値や競争力を維持するために、どのような打ち手を考えておられるのでしょうか。

青木 スーツについては、取組みの重点が3つあります。一つ目は、付加価値型スーツの企画販売。「洗えるスーツ」といった機能性を高めた商品、デザイン性を追求した商品、すぐ手に入るパーソナルオーダースーツなどを開発していきます。

二つ目は、コロナ禍が契機の「ニューノーマル」に対応した新商材の開発。例えば、在宅勤務の普及で、いつでも、どこでも仕事ができるという環境になってきています。しかし、あくまで勤務中ですから、リラックスして仕事がしやすい格好へのニーズと同時に「お客さまや上司にいつ、対面しても恥ずかしくないスタイル」へのニーズも高まってきています。そこで、スーツなのに自宅でくつろげる「パジャマスーツ」や、デスクワークはもちろんオフィス以外でのワークにも最適な「アクティブワークスーツ」といったカジュアルなスーツを発売したわけです。

三つ目は、レディースアイテムの拡充。女性の社会進出に伴って、「きちんとしたスタイルの服」も今まで以上に求められるようになっています。潜在市場は大きいと見ています。

レディーススーツは、既存の百貨店を主戦場とするブランドも根強いです。このマーケットで優位性を獲得するための武器は何でしょうか。

青木 コロナショックを経て、リアルの婦人服売場が減少しているので、お客さまが自然と買い場を求めて弊社にお越しになる面もあります。しかし、ご指摘のように、今後は、それだけに頼るわけにはいかないでしょう。

そこで、「AOKIならでは」の働く女性のニーズを反映した機能性の高い商材を強化しています。加えて、パジャマスーツは女性にも人気であり、そうしたオリジナル商材をベースにして、キャリア向けの提案力を高めます。並行して、カットソー、インナーなどの品揃えも拡充し、プライベートシーンのニーズにも、対応できるようにしていきます。

ブライダルはブランディングとサービス機能に注力

表参道のブライダル旗艦店カフェ

次にブライダル事業について。市場の将来性という点では、スーツと同様に厳しいです。それでも、経営の柱の一つとして強化する理由は何ですか。

青木 おかげさまで、当社の「アニヴェルセル」ブランドは、親しみやすさを大事にしながらも、非日常感と高級感を兼ね備えたゲストハウスウェディングが支持され、ブライダル市場で存在感を高めています。しっかり今の足場を固め、ブランディングやサービスを強化してシェアを拡大すれば、ブライダル事業を成長させることは、可能だと見ています。

今後、どのような成長戦略を描いていますか。

青木 ブランディングでは、プレミアムなイメージ作りが重要だと考えています。結婚式は、お客さまにとって一世一代の晴れ舞台、一生の思い出になるわけです。だからこそ、式場のロケーションにはこだわっています。

現在、東京の表参道、横浜のみなとみらいなど、最高のロケーションに旗艦店があります。また、外資系ラグジュアリーブランドとコラボレーションしたカフェを期間限定でオープンしたように、今まで以上にブランド価値を高められるよう、他業種との協業にも積極的に取組んでいきます。

一方で、サービスの機能とは?

青木 お客さまニーズ・時代に合わせたサービス・利便性の向上によって、ほかのブライダルサービスとの差別化を図ります。コロナ禍が大きな転機になりました。例えば、結婚式の打合せは従来、新郎新婦のお二人に何度もお越しいただくなど、ご負担をおかけしていたのですが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって、リモートでもご相談できる仕組みを導入しました。フォトウェディングや少人数での挙式など、お客さまニーズに合わせた新しいサービスも開始しました。

青木彰宏社長

また、披露宴ではテーブルに給仕したり、ブュッフェスタイルにしたりするのが一般的でしたが、料理を重箱などにプレセットする方式を導入しました。コロナ禍でも安心して挙式があげられるうえに、オペレーションも効率化できるので、一石二鳥の効果があったと考えています。

(後編に続く)