今日から3回にわたって、1998年1月1日発行の『チェーンストアエイジ』誌に寄せた拙文を若干の加筆・修正を加えた上で掲載する。
混沌とする現在の日本の食品スーパー(SM)市場は、約15年前の米国と酷似していることがわかる。同質飽和化から抜け出すためのキーワードは「分化」だ。以下、数字や肩書きについては当時のままとする。
米国の食品小売業界の市場規模は約4250億ドル(50兆円)と言われている。巨大市場ではあるが、年間成長率はインフレ率を調整すると、ここ数年来、横ばい状況が続いている。レストランやファーストフードなどの外食産業に家計消費支出(食費)の半分が奪われるようになってきたことが頭打ちの主因である。
米国SM業界の平均客単価は18~19ドル。米国のSMは“ワンペニー・ビジネス”と称されるように1ドルを売ってようやく1ペニー(利率1%)が出せるかどうかといった過酷な状態だ。
SMビジネスが複雑化していることがその遠因であるし、スーパーセンターや会員制ホールセールクラブなど価格訴求型フォーマットへの対抗策として各企業が意識的に粗利益率を下げてきたことも自らの首を締める原因になった。
こうした閉塞状況の打破を意図して、米国SM企業の多くは、ECR(消費者への効率的対応)や各種テクノロジー導入、ローコストオペレーション実施などの科学的アプローチによって改善を進めてきた。
しかし、一方で「芸術的(アーチスティック)な革新には消極的だった。今後はマーケティングをマーチャンダイジングに、ロジスティクスをコーポレートコミュニケーションへと変えていくべき」と元『スーパーマーケット・インサイツ』誌エディトリアル・ディレクターのケビン・クープ氏は指摘する。
米国の食品小売業は根本的な改革の必要に迫られるとともに、転機を迎えているのだ。
FMI(米:フード・マーケティング・インスティテュート)が1996年5月に提唱した「ミール・ソリューション」の実践は、こうした反省に基づく米SM業界の新しい息吹だ。
そして、いま米SM業界には、「ミール・ソリューション」以外にも多くの新しい動きが現出している。
根底に流れるのは「消費者を待つのではなく、企業が消費者に歩み寄ろう」という“カスタマー・ダイレクト・リテーリング”の発想である。これがSMを抜本的に変える軸となる。
いまのところSMとは直接関係はないかもしれないが、アマゾン・ドットコム(書籍)やL.L.ビーン(アウトドアグッズ)、オハマステーキ(ステーキ用肉)、タワーレコード(CD、ビデオ)をはじめ、オンラインを使っての商品オーダーは、もはや一般的であり、“カスタマー・ダイレクト・リテーリング”は消費者の生活に確実に浸透し始めている。
SMがこれを取り込むまでに、それほど長期間を必要とはしないだろう。
明日に続く。