『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌(ダイヤモンド社刊)の2013年3月号は、ゲイリー・ハメル ロンドン・ビジネス・スクール大学客員教授のインタビュー「いま経営は何をすべきか」を掲載している。
ハメル教授は、イノベーションをピラミッドのような多層構造としてとらえ、5種類に分類して言及している。
その最下層に位置付けるのは、オペレーション上のイノベーションである。
大事なことではあるのだが、オペレーションでいくら頑張っても同業他社と長期的な競争優位は確保できないとしている。
私なりに小売業に当てはめる(以下同)と、「バックヤードの整理・整頓」、「従業員のマルチジョブ化」、「コンセッショナリー(名前を出さない専門店)導入」などを挙げることができる。
次の下から2番目のイノベーションは、製品・サービスについてだ。画期的な製品やサービスの開発を意味する。
小売業では「プライベートブランド商品開発」、「ネットスーパー」、「総菜売場への鉄板導入」、「御用聞きサービス」などをサンプルとして挙げることができる。
ただ、ハメル教授によれば、「今日、こうしたイノベーションは6ヶ月も経てば、真似されてしまう」という。
3番目のイノベーションは、ビジネスモデルのイノベーションだ。
「製品やサービスを超えて、それらを生産したり、顧客の手元に届けたりする際に、どんな新しい方法を用いるかというところに関わるもの」(ハメル教授)である。
小売業で言えば、SPA(製造小売業)型のビジネスモデルへの取り組みを挙げることができ、個別企業では、ユニクロ(山口県/柳井正社長)やニトリ(北海道/似鳥昭雄社長)などが該当する。
業界のルールそのものを変えてしまうために、競合他社は簡単に追いつくことができないことが特徴だ。
その次の4番目のイノベーションは、構造的イノベーションだ。
これは、産業構造自体を根本的に変えてしまうものであり、その代表格はアップルとアマゾン・ドット・コムだ。
ハメル教授は、「アップルが音楽産業に対して行った(中略)イノベーションは〈iPod〉というハードウエアではなく、レコード会社を一堂に集めて、これまでにない法的な枠組みで楽曲をインターネット上で販売するのに同意させたこと」と言い、日本の企業が苦悩しているのは、構造的イノベーションができないことであると指摘する。
私なりに解釈するならば、日本は、従来の既得権益や縦割りの産業構造が強過ぎるため、その壁を打ち破る発想はあっても、実現する前のどこかの段階で潰されてしまっているような気がする。
ただ、既存の業際をどんどん突破していくセブン-イレブン・ジャパン(東京都/井阪隆一社長)の方向性などは、このイノベーションに極めて近いと思う。
そして最上階にあるのが、マネジメントのイノベーションだ。
「人間が働く、その方法自体を新しくすること」であり、「これに成功すると、永続的な競争優位を得ることができる」とハメル教授は言う。
ゼネラルモーターズの部門組立構造やトヨタ自動車のカイゼンなどを例証に挙げ、半世紀程度は競争優位を保てるとしている。
これら5段階についてみてみると、イノベーションの階層が上がれば上がるほど、モノマネされにくくなる一方で、難易度も高くなっていることが分かる。
そして、かつて、これほどまでに明快にイノベーションを類型した論文を読んだことがなかったので、ハメル教授のインタビュー記事は、私にとっては「目からうろこ」でとても参考になった。
なお、ハメル教授の最新刊は2013年2月21日発行の『経営は何をすべきか 生き残るための5つの課題』(ダイヤモンド社刊:訳有賀裕子)。今回は宣伝ではなく、ぜひ読んでいただきたい、というお奨めです。