日本食研ホールディングス(愛媛県)の東京オフィスを訪れると、入口そばに貼り出された「Enjoy Business」の文字がひときわ目に付く。
2009年に社長に就任した大沢哲也(41)さんの思いを表現したモットーだ。
「いやいや仕事をしても良い結果は出ませんから、仕事を楽しんで欲しいという意味合いです。決して楽をしなさい、という意味ではありませんから」と微笑む大沢さん。
1年前に越してきた東京・飯田橋の東京オフィスは、「Enjoy Business」のモットーをそのまま形にした。
とくに個人のモチベーションを喚起し、自立してもらい、持ちうる才能を遺憾なく発揮できるような環境になるように配慮したのだという。
その現れのひとつは、個人に指定のデスクを与えていないことだ。従業員は出社すると、早い者順でその日に座る席を決める。
当日にこなさねばならない仕事の内容やその日の気分で、毎日座る席を変えることができる。
会議の場所も、喫茶店風、スタンドバー風、クラブ風、ビジネス風…選り取りみどりだ。
なぜ、このようなオフィスにしたのか?
3400人に上る従業員の個性やパワーに敬意を評し、その潜在性に対して大きく期待しているからだ。
大沢さんは、職場環境を整備することで、各人がそれを最大限発揮できる場づくりを進めている。
同じように3400人の叡智を集結させるために大沢さんが利用しているのは、社内限定のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だ。
使っているのは、セールスフォース・ドットコム(米国/宇陀栄次社長)が提供する無料版の社内SNSの「Chatter」である。これをうまく活用して、従業員の叡智を集めることに成功している。
たとえば、「Chatter」上に幹部社員が難問を書き込む。
《真空パックのメリット、デメリット、留意点はどこにあるのか?》
すると、3400人の従業員の誰かが口火を切り、意見を書き込む。次の従業員が意見をかぶせる。その次の従業員…意見が幾重にも重なり、蓄積されていく。
最終的に、それらを合わせていくと、結論に近いような答えが浮かび上がってくる。
また、全国の営業パーソンに向けて、「取引先で最も売れている総菜を教えて!」と書き込む。あっという間に、全国各店舗の人気メニューが写真入りで掲載され、社内SNSは、まるで全国スーパー総菜事典のような情報プールに変わる――という具合だ。
2月5日の本BLOGにおいて、「企業の中には、やはり社員の人数分、成長戦略や新規事業創造から現場の小さな問題解決に至るまで多くの知恵があると思われる。これらを項目ごとに集め、うまく使いこなすことができれば、現経営陣だけで考えるより、よほどすごいアイデアが生まれてくるに違いない」と書いた。
日本食研ホールディングスの取り組みは、これをすでに具体化していることに驚かされるとともに、ビジネスを心底エンジョイしている従業員の姿が透けて見えてくる。