『友達の詩』などのヒット曲を持ち、この4月18日に1年8カ月ぶりとなる5THアルバムの『聞こえる』をリリースするシンガーソングライター、中村中(あたる)さん。
その楽曲づくりの手法は、「詞先(しせん)でも曲先(きょくせん)でもなく、企画先」なのだという。(※詞先は詞に曲をつける、曲先は曲に詞をつける手法)
「伝えたい何か」がないと楽曲はつくらない。それを突き詰めることから創作活動を始めている。
この話を聞いて即座に思い出したのは、作家安土敏さんの言葉だ。
「ゴールが決まり、ストーリーが決まり、人物設定すると、物語が自然に動き出すようになるのでそれを書いていくだけ」と自らの小説創作の手法を教えてくれた。
たとえば、『小説スーパーマーケット』(講談社文庫)のゴールは、GMS(総合スーパー)やディスカウントストアなど、〈スーパー〉として十把ひとからげにされていた《食品スーパーの世界》を世間に知ってもらいたいということだった。ストーリーを決めて、友人・知人のキャラクターに名前を付けて登場人物として組み込んだ。
すると、自分の意思ではなく、物語が勝手に動き出すようになる。書くのが追い付かないくらいのスピードで動き出すのだという。
中村さんの言う「伝えたいもの」と安土さんの言う「ゴール」は同じ意味合いなのだろう。
そして、これが存在しない作品や芸術はない、と結論しておきたい。