リテイル(小売業)のマーケティングについてである。
『チェーンストアエイジ』誌の読者のみなさんは、ご存じのことと思うが、小誌のキャッチコピーは「マーケティングとイノベーションのために」である。
ここで言うマーケティングとは、「顧客の維持・深耕、創造に関する一切合切のこと」だ。
では、小売業のマーケティングの実態を考えるとどんな具体的な手法があるのだろうか?
私は、大きく3つあると思う。
ひとつは、モノマネである。他社が実践した成功事例や斬新な取組をストアコンパリゾンのついでにチェックして、それをそのまま、あるいは若干のアレンジを加えて導入する。柳の下にはドジョウが数匹はいるようであり、モノマネは、どの企業にもある程度の効果と結果をもたらす。
モノマネは、“先行の利”を享受できない、という弱点がないわけではない。
しかしながら、モノマネはマーケティングの手法としては重要な戦術のひとつに位置づけられていると言っていい。
2つには、顧客から直接、意見を聴いたりするリサーチである。
顧客の消費動向分析なども含まれるが、「お客様副店長制」や「消費者モニター制度」などを導入してインタビューまたはアンケート形式で意見聴取することが一般的である。
ただし、この手法は当たり外れが大きい。
日本マクドナルドホールディングス(東京都)の原田泳幸会長兼社長は、「お客様にどんな商品が欲しいかと聞くと、ローカロリー、ダイエット、ヘルシー、オーガニックなどと回答してくださる。けれども、そうした商品を開発しても売れず、真逆の高カロリーである大きなハンバーガーが売れたりする」と直接リサーチには懐疑的な見解を示している。
確かに、既存商品の改良や改善については、顧客の意見は傾聴に値する。
しかし、発売前のiPODのように、現在市場に出ていない商品について、顧客は意見の述べようもなく、実は自分は何が欲しいのか本当のところは分からなかったりするのである。
そこで重要になるのは3つめである。
それは自ら考える、という手法だ。マーケティングを他力任せにせず、自分の頭で考える。「顧客を維持・深耕、創造」するためにわが社で必要なものは何であるのか?
フラッシュアイデアでも独善的でも押しつけでも構わない。
自ら考え、具体的な形にして、顧客の「不」を解消したり、見たことも想像したこともないような何かを提供する。
残念ながら、小売業の場合は、このマーケティングの3つめの手法に真っ向から取り組む企業が少ない。
しかし、本当の意味での異質化、差別化は、3つめの手法からしか生まれないことを故スティーブ・ジョブスは、教えてくれる。