こう宣言して、“高付加価値”と称する商品の販売に力を入れる小売企業を良く目にする。
荒井伸也(作家・安土敏)さんは、「そんなのおかしい」と一笑に付している。
「『広辞苑』で〈価格〉という言葉を引くと、『商品の価値を貨幣で表現したもの』と書いてある。だから、価格とは商品の価値そのもののことであり、価格を伴わない価値などない」という理由からだ。
ご存知、荒井さんは、食品スーパーのサミット(東京都/田尻一社長)元社長。温和な顔立ちとは裏腹に、闘争心は、この上なく旺盛で競合との戦いには自ら陣頭指揮に当たった。
お聞きすれば、戦い方は実に細かい。
生鮮食品なら、サミットの特徴である「インストア加工」のアドバンテージをしっかりと活かし、鮮度と品質でまず競合を凌駕する。そのうえで、価格は競合にぴったり合わせるという作戦を指揮した。
サミットが3店舗を展開するドミナントの真ん中に競合店が出店してきた時にはタマゴを使った。競合店から既存3店舗距離は、ほぼ1km。毎日、3店のうちのどこかの店舗がタマゴを特売するという作戦をとると、競合店は、対抗上毎日特売せざるをえなくなった。それが競合店の収益を悪化させた。
酒ディスカウンターには、酒類の粗利益率をゼロにして撤退するまで原価販売を続けた。もともと酒類の利益貢献度は高くないことに目をつけた作戦だ。「サミットの価格対応は凄い。競争したくない」とライバル企業に言わしめ、荒井さんはニンマリだったそうだ。
荒井さんは、多い時は、同時並行的に既存3店舗に対してこうした作戦の指示を出していた。競争と価格政策、徹底に対する考え方が明確に表れており大変面白い。
そして、荒井さんは、こうした競合対策は「トップの仕事だ」と言い切る。作戦を実行に移すためには、店舗の部門利益や営業利益予算を大きく変更する必要があるからだ。
「だから、しっかり競合店を回り、弱点を探し出し、そこを突いていた」と現役時代を振り返り、話をしてくれた。
一見、“学者肌”に見える荒井さんにしてこの執念――。
同業他社のトップのみなさんは、このエピソードを読んでどんなふうに感じたでしょうか?