商売人C「唐突ですけど、王貞治さんと聞いて何を思いつきますか?」
私「王貞治さん? ジャイアンツの黄金期を長嶋茂雄さんとともに支えたV9戦士ですよね。子供のころの憧れで、通算868号ホームランはいまなお世界最高。三冠王も2回獲得しています。そうそう、国民栄誉賞の第1号受賞者は、確か彼でした。日本のプロ野球に大きな金字塔を残しましたよね」
商売人C「そうですよね。でも、それだけじゃありません。指導者としての王さんを忘れていませんか?」
私「ああ、スッポリと抜けていました。王さんは1981年から巨人の助監督をしていました。藤田元司監督と牧野茂ヘッドコーチとともに“トロイカ体制”と言われていました。民主党のトロイカよりもずっと前のことです。また、1984年から監督に昇格して1988年までの5年間、巨人を率いていた」
商売人C「リーグ優勝1回、2位2回、3位2回と5年間ともにAクラスでした。大した手腕だったけれども、常勝を強いられる巨人では物足りないと評価されてしまい辞任に追い込まれてしまいます。その後、浪人を経て、1995年から福岡ダイエーホークスの監督に就きました」
私「初めのころは勝てなくて、ファンから生タマゴをぶつけられて悲壮感が漂っていました。でも1999年に初優勝を飾ると、ペナントレースでは常に上位争いができるチームに育て上げた。もう、王さんは、東京都墨田区出身の人じゃなくて、すっかり博多の人になってしまいました。そうだ、第1回のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の優勝監督も王さんでしたね」
商売人C「古い野球ファンの王さんの印象は、ジャイアンツ在籍中のものが強いだろうけど、王さんは選手としてはもちろん監督としても進化を遂げてきたし、いまこの時点でも、プロ野球の発展のために陰で貢献しているかもしれない。そういうことを調べたうえで、王さんは評価されるべきですよね」
私「その通りです」
商売人C「そこで、先日、亡くなった渥美俊一先生の話なのです。流通専門各誌の追悼特集を読むと、過去の一時期の考え方を取りだして、評価されていたけれども、それは王さんで言えば、巨人の選手時代のことを王さん全体と言っている気がして、とても残念な思いがしました」
私「そうかもしれません」
商売人C「実は、渥美先生の素晴らしいところは、内容の“今日性”であり、それをしっかりと理論で固めているところにあります。私が言うのもおこがましいのですが、先生自身が70歳代も80歳を過ぎてからも日々進化しており、現在の流通業に通用する理論構築をしていました。ところが、追悼特集では、40年から30年前の功績ばかりが語られていた気がします」
私「確かに最近の渥美先生の考え方やセミナーの内容についてしっかり評価していた人は、そんなにいなかったかもしれませんね」
商売人C「それがとても残念です。もちろん、渥美理論に毀誉褒貶があることは知っています。その多くの論拠は、『古い』『ミスリード』ということになるのでしょうが、私はそうは思いません。また、かつて、渥美先生が疑問視した企業が大きく成長したというケースも少なくありませんでした。しかしながら、経営コンサルタントは占い師ではないと私は思うのです。企業の未来予想の確率が重要なのではなく、好調な企業の良い部分を認め、取り出して原理原則に当てはめ、教えてくれることが経営コンサルタントの腕前の良さなのだと考えています」
私「なるほど、その意味では、渥美先生の直近10年間くらいの仕事をもう一度見直す必要があるかもしれません」
商売人C「ぜひ、あなたがやってください」