アジェントリクス・エーピー(東京都)の飯塚博文社長によると、小売業の世界では欧州勢の発言権が圧倒的に優勢なのだそうだ。
「アジェントリクス」と聞いてもピンとこない方は多いかもしれないが、2005年10月にGNX(グローバルネクストチェンジ)社とWWRE(ワールドワイドリテールエクスチェンジ)社が合併して設立された、といえば、「ああ」と思い出す方もいることだろう。
現在は、世界34か国で業務を展開し、20万社以上の加盟企業をつなげている。
念のため説明しておくと、GNXとWWREは、2000年2月に設立され、企業間電子商取引市場として資材や商品の調達場として、一躍注目を集めた。
GNXには、シアーズローバック(米)やクローガー(米)、カルフール(仏)、セインズベリー(英)、メトロ(独)などが参加。WWREにKマート(米)やターゲット(米)、セーフウエイ(米)、アルバートソンズ(米)、CVS(米)、ギャップ(米)、マークス・アンド・スペンサー(英)やテスコ(英)、またロイヤルアホールド(蘭)、カジノ(仏)、エデカ(独)などの企業が参加していた。
飯塚社長の回顧によると、2社の統合後にまず力を持ったのは米国勢だったという。
「アジェントリクス」内での発言は強力で、自社の思惑や手法を勢いに任せ力づくで押し付けてきた。
ところが情勢はたちまち逆転する。
わずか数か月後には、あらゆるケースで欧州勢の意見がことごとく通るようになったのだ。米国の企業は防戦一方で、「アジェントリクス」内で幅を利かせているのは、いまや欧州勢だ。
「なぜ、そうした状況が起こったのか?」と飯塚社長に聞くと、次のように答えてくれた。
「米国の企業には反省がない。結果が残せないとCEO(最高経営責任者)は即刻クビ。次の経営者がまたゼロから経営の建て直しを図る。だからノウハウや理論は残らない。一方、欧州の場合は、失敗した場合には、前経営者がその原因を突き詰め、反省し、理論化する。そして、次の経営者にバトンタッチする。つまりノウハウが蓄積されているのです」。
アメリカの使い捨て文化はいまに始まったことではない。
作家の司馬遼太郎さんが「アメリカは都市も使い捨てる」と書いていたが、「臭いものにはふた」をしてしまい、失敗の理由を追求しないことが、自らの弱体化を呼び込んでいるのである。