CD(コンパクトディスク)が発売されてからというもの、ミュージシャンのアルバムを初めから最後まで全部聴くことが少なくなった。
シングルカットされたような“話題の曲”や一回聴いて気に入った曲をリピート機能で繰り返し聴くことが多く、ザッピングばかりしている。
レコード盤時代の音楽の聴き方は、いまとはずいぶん違った。まず、LPレコードを購入してくると、カセットテープにダビングして、それをステレオか、ラジカセ、カーステレオ、ウォークマンで再生する。アナログ再生の場合、ザッピングは簡単にはできないので、必然的にLPレコードを頭から尻尾まで順番に聴くことになる。
こうした環境の中に置かれると、サザンオールスターズ、オフコース、松任谷由実、矢沢永吉など有名アーチストのアルバムを、初めから最後まで順番に覚え、しかも歌うことができるようになる。まるで、携帯電話が普及する以前に20個くらいの電話番号を平気で暗記していたのと同じ感覚だ。
有名アーチストといえども、アルバムに収録されているすべての曲が平等に輝いているわけではなく、駄作も多々ある。けれども、幾度となく聴いているうちに埋もれた「素晴らしい曲」を発見することもあり、それが音楽鑑賞の醍醐味でもあった。
そして、自分の好き嫌いにかかわらず、全楽曲を耳にすることで、音楽の感性は磨かれていったような気がする。
デジタル時代の到来にともない、音楽鑑賞もハード的には確実に便利になった。
しかし、便利であることの裏側では、失われてしまっているものも少なくないような気がしてならない。