3月11日、14時46分。
イオン(千葉県)の岡田元也社長は、千葉県幕張の本社で会議中だった。
突然、大きな揺れが襲いかかった。「本社は震度6。大変な状況だった」と岡田社長は、この時を振り返る。
15時。
幕張本社内に対策本部室を設置。電光石火、地震発生からわずか15分後のことだった。
大きな被害を受けたのは東北エリアであることが判明。イオングループは、この地に38社、449店舗を展開しており、従業員数は約2万人に上る。
17時ごろ。ようやく立ち入りが可能となった東北カンパニー事務所(仙台市青葉区)に現地対策本部を設置する。
現地対策本部は、発足と同時に動き始めた。
まず2万人の従業員の安否確認に着手した。3月25日現在で死亡確認できたのは9人。うち店舗内で命を落とした従業員は1人。9人がいまだに行方不明だという。
店舗の被災状況については、11日中にほぼ全店舗の営業の可否と被害状況が把握できた。翌12日に「通常営業」「一部営業」「店頭営業」ができそうだったのは161店舗。総数の65%は営業一時停止を余儀なくされた。
これを受けて、イオンは、日本全国の各エリアからグループ合計2000人の従業員を50台のバスに乗せ、被災地に派遣、復旧態勢を整えた。
現在(3月26日)は、422店舗が何らかの形で開業。営業のできていない店舗は、GMS(総合スーパー)では、イオン多賀城(宮城県)、イオン気仙沼(宮城県)、イオン相馬(福島県)、イオンいわき(福島県)。SM〈食品スーパー〉は、マックスバリュ塩釜(宮城県)、マックスバリュ名取(宮城県)。スーパーセンターは、イオンスーパーセンター南相馬(福島県)、ホームセンターはサンデー大船渡店(岩手県)、コンビニエンスストアはミニストップ18店舗、その他として仙台フォーラス(宮城県)の合計27店舗だ。
大きな被害を受けた店舗のひとつがイオン気仙沼店(宮城県)だ。外観は見るも哀れな状況になってしまい、いまだに再開できていない状態だが、この店舗は死亡者を出していない。地震直後の店長の適切な判断と誘導によって230人のお客を全員屋上に避難させていたのだ。(→4月1日、店舗の屋上などを利用して営業再開予定:3月31日千田修正)
同じように住民の安全を守る役割を果たしたのがイオン石巻ショッピングセンター(宮城県)だ。広域避難場所に指定され、いち早く、地域住民に開放して、約2200人が避難。現在も約500人がモール内のあちらこちらに避難している。(→3月31日、1階フロア営業再開予定:3月31日千田修正)
さて、安否確認、建物確認の次には、物流網の確認と手当に取り掛かった。
東北RDC(リージョナル・ディストリビューション・センター)〈宮城県〉は大きな打撃を被っており、一時的に東北エリアの6拠点で物流機能は停止した。
これを修復すべく、11日夜に建設などの専門部員12人を送り込んだが、即時の復旧は難しいと判断。関西NDC(ナショナル・ディストリビューション・センター)〈京都府〉と中部RDC(三重県)から東北エリアへの商品直接輸送を決めた。
被災地地区店舗と防災協定に基づく地域行政からの依頼(108件)に対する救援物資を第一優先で手配し、まず被災地に輸送。13日までに現地に届けた救援物資は、①水(2l×6本)×4万ケース(トラック70台分)、②毛布6万枚、③おにぎり4万個、④電池80万個、⑤カップめん57万個に上る。
また、やはり被災した関東RDC(千葉県)の復旧に努め、こちらは機能回復に至っている。なお、東北RDCは4月末までに復旧する見込みだ。
イオングループの強みとは、
①全国に店舗展開するナショナルチェーンであること
②自社で100%コントロール可能なサプライチェーンを構築していること
③グローバルソーシングをしていること
④PB(プライベートブランド)の「トップバリュ」を有していること
の4点だ。
ヒトの安否が確認でき、店舗の状態を確認すれば、自社の物流網を駆使して自社の商品を安定供給することができる。
国内の商品在庫が品薄になれば海外からも調達できるのがイオンの大きな強みでもある。
実際にイオンは、この間、グローバル力を発揮し海外からの商品調達にも乗り出した。
中国からは、ティッシュペーパー20万パック、トイレットペーパー15万パック、懐中電灯5万個、フランス・韓国・カナダからはミネラルウォーター(2l)を130万本、チリからサーモン500トン、オーストラリアからたまねぎ1500トン、にんじん500トン、タイからはツナ缶2600万缶といった具合だ。
しかもグループ企業のメガペトロ(千葉県/藤原茂昭社長)はショッピングセンター内の敷地でガソリンスタンドを運営しており、緊急トラックへの燃料供給もスムーズにできた。
グループ力を結集しての復旧への取組は見事に奏功し、イオンは、3月14日から20日の7日間で、水(500ml換算)を800万本、カップめん400万個、コメ(5kg換算)100万袋、ごはん(レトルト)60万個、電池50万個、ティッシュ2万6000個、トイレットぺーパー3万5000個、生理用品3万個、紙おむつ3万個を販売した。
5兆円超を売り上げるグループの規模の優位性をいかんなく発揮した格好だ。
イオングループは、今回の被害総額は300億円弱(うち商品は60億円)と試算するが、被害甚大エリア(岩手県、宮城県、福島県)の営業収益への影響度は連結ベースのうちの3%とみており、「軽微であり、新年度中に吸収できる範囲」(岡田社長)と自信さえのぞかせた。約30億円を超える支援金の寄贈も明らかにしている。
岡田社長は、ここまでの復興劇を振り返って、「イオンにはレジエンス(うまく適応する過程・能力・結果)がある」と胸を張った。