メニュー

焦点:政治的表現の自由と人権尊重、FBが直面するジレンマ

ホワイトハウスでスマートフォンを使うトランプ大統領(当時)の手元
5月5日、米フェイスブック(FB)の独立監督委員会は、同社が1月にトランプ前米大統領のアカウントを凍結したことを支持するとの審査結果を発表した。写真はホワイトハウスでスマートフォンを使うトランプ大統領(当時)の手元。2020年6月撮影(2021年 ロイター/Leah Millis)

[6日 ロイター] – 米フェイスブック(FB)の独立監督委員会は5日、同社が1月にトランプ前米大統領のアカウントを凍結したことを支持するとの審査結果を発表した。だがこれで、政治指導者の表現の自由を守りつつ、憎悪的な表現が暴力をあおるのを阻止する責任を果たすという、FBのジレンマが解決されたわけではない。

政治指導者の情報発信を巡るFBの対応は、米国だけでなくインド、ブラジル、ミャンマー、フィリピンといった国でも重大な意味を持つようになっている。国連や市民団体らによると、これらの地域の政治指導者がFBを通じて憎悪を駆り立てたり、偽情報を拡散したりして、多数の犠牲者を出すような事態を招いているからだ。

監督委員会は「FBは政治的な話をする上で実質的に必要不可欠なメディアになった。(従って)政治的な意見表明を容認しながら、人権に深刻なリスクをもたらすのを避ける責任がある」と強調した。

FBは、1月6日の連邦議会議事堂襲撃に際してトランプ氏が取った行動について、「ラバト行動計画」に照らしてアカウント凍結を決定。監督委員会はこの点は妥当だと評価している。

ラバト行動計画は、国連の「市民的政治的権利に関する国際規約」第20条で定められた「差別、敵意または暴力の扇動を構成する、国民、人種または宗教に基づく憎悪の唱道は、法律で禁止すべき」という項目について、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が解釈基準として採択したもの。ある発言の内容や発言者、その意図や背景などについて6つの条件を満たすことが禁止対象になるとされる。

トランプ氏の場合、当時は米大統領という地位にあり、FBのアカウントのフォロワーは3500万人に達していた。そしてFBの動画で、首都ワシントンに集まった支持者に対して、その一部が議事堂に乱入していたにもかかわらず、「皆さんは特別だ」などとエールを送るような発言をしていた。

監督委員会は、トランプ氏が大統領という伝達力のある権威を駆使して襲撃者を応援したと結論づけるとともに、暴力美化を禁止するFBの規約を同氏が破ったことは人権侵害の観点で深刻だと指摘した。

一方で同委員会は、トランプ氏のアカウントの永久停止は勧告せず、FBがアカウント開設の再申請手続き、ないしトランプ氏の権利を復活させる時期を判断するための仕組みが設けられていないと批判。6カ月以内にトランプ氏の取り扱いを決定し、さらに既存の規約では差し迫った弊害を防止できないような危機に対処するため、新たな規約を策定するよう促した。

FBは、こうした委員会の提言を検討するとしている。

求められる基準明確化

FBが現職の国家元首や国家指導者のアカウントを凍結したのはトランプ氏が初めてだった。その後3月には、ベネズエラのマドゥロ大統領が新型コロナウイルスの偽情報を拡散しているとの理由で、アカウントを30日間停止。マドゥロ政権側がこの措置に「デジタル全体主義」だと非難する場面もあった。

主要な情報発信源になったFBは、総じて言えば政治指導者に対して表現の自由を行使する余地を与えている。なぜなら指導者の発言は、政府を機能させる上で大事であり、ニュース性があるからだ。それでも規約に違反した政治家や政治的発言への取り締まりに動いており、インドやハンガリー、メキシコなどの政府からの反発や規制強化の脅しを受けている。

ただ多くの市民団体が苦言を呈するのは、FBがやたらとプラットフォーム上の反対意見を「封殺」しようとしながら、強権的な政府が同社やその傘下のインスタグラム、ワッツアップなどをさまざまな形で悪用している問題に対処する有効な手段を持っていない点だ。

特に状況が緊迫しているのはインド。昨年以降、FBは与党のインド人民党(BJP)所属の政治家によるヘイトスピーチなどの規制が後手に回っている、と利用者から厳しい目を向けられている。その半面、FBはインド政府から、地方政治家などが中央政府のパンデミック対応を批判した投稿を削除するよう突き上げられている。

こうした中で、監督委員会がFBに要求したことの根幹にあるのは、トランプ氏を含めた全てのFB利用者には、どんな行為がアカウントの永久停止に該当し、どういう手続きをすれば凍結措置を解除できるかをはっきり知る権利があるという考え方だ。

国連の人権に関する諸規定に基づけば、表現の自由は根本的な権利であり、FBによって恣意的に制限されるべきものではない。FBも3月に公表した規約でそうした人権の尊重を約束している。

スタンフォード大学のネート・パーシリー教授(法学)は5日、「人権に関する国際法が判断の指針だと考えるなら、規約に違反したどんなコンテンツを投稿したとしても、そのアカウントの永久凍結が許されるとは到底考え難い」とツイッターに投稿した。

しかしこうした国際法は、人々は暴力やその他の弊害から守られるべきだ、とも唱えている。ニュー・アメリカズ・オープン・テクノロジー・インスティテュートのディレクター、サラ・モリス氏は、監督委員会の審査結果について、1月6日の襲撃事件に至るまでにトランプ氏が繰り返した問題のある投稿と、それによる事件への影響が「アカウント凍結を正当化するほどの特にひどいケース」に当たるとの判断だろうと解説した。

監督委員会の少数メンバーは、トランプ氏が昨年の大統領選に大規模な不正があったという間違った主張をやめたとFBが判断できるまで、アカウント復活を見送るべきだと主張したが、委員会はこの意見を採択しなかった。

もしFBがこの要求を受け入れたなら、トランプ氏のFB復帰はずっと先になるだろう。同氏は今もなお、昨年の大統領選挙におけるバイデン氏の勝利を「大嘘」と言い続けているからだ。