[東京 13日 ロイター] – 政府は、緊急事態宣言の対象地域を11都府県に拡大させる。前回宣言時と比べ制限が緩く影響は国内需要の悪化に限定されるため、1カ月程度の発令であれば経済損失は消費を中心に1兆円程度と、昨年の宣言時より小幅にとどまると民間調査機関では試算している。ただ、1年にわたる経済活動の低下により雇用や企業の体力はすでに弱まっており、見かけの数字以上に影響は深刻なものとなる可能性がある。
経済損失は約1兆円、宣言解除されれば復調
基本的対処方針等諮問委員会は13日、緊急事態宣言の対象地域を首都圏1都3県に加えて大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木県の11都府県に拡大する案を了承した。これら地域における消費は全国の約6割を占めており、外出自粛や外食需要の減少、サービス消費への影響は大きい。消費の停滞は、関連する設備投資の減少にもつながる。
ただ、今回は飲食店などへの短縮営業要請が夜間に絞られていることなどから、民間調査機関では緊急事態宣言を受けたことによる経済損失は約1兆円程度と、昨年の宣言時の1カ月でのおよそ3兆円程度(大和総研試算)よりはかなり小さくとどまると見込んでいる。急激に落ち込んでいた世界経済が、昨年に比べれば回復していることも支えだ。
緊急事態宣言がなかった場合と比べて、1カ月間の経済損失はSMBC日興証券の牧野潤一・チーフエコノミストが1兆円程度と試算、みずほ証券の小林俊介・チーフエコノミストも1.2兆円程度、大和総研の神田慶司・シニアエコノミストは1.3兆円度と見込む。
みずほ証券では従来1─3月期の成長率を前期比年率プラス0.5%と想定(昨年12月時点)していたが、緊急事態宣言を受けて同3.5%のマイナス成長に転じると試算し直した。
もっとも、緊急事態宣言が解除されれば「宣言前の水準に戻ろうとするため4─6月期には挽回し、その後は年末に向け緩やかに回復していく」(SMBC日興の牧野氏)と予想されている。
疲労蓄積、期間延長なら「日本経済への最後の一撃」にも
しかし、昨年2月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響は経済の多方面に累積している状態だ。企業の財務状況や、雇用環境、所得状況などはすでに大きく悪化している。
第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストによると、失業者の増加は国内総生産(GDP)の悪化に2四半期遅れて反映されるため、「今回の緊急事態宣言発出が雇用環境に及ぼす影響は今年の夏場にかけて拡大する可能性がある」と指摘する。
賃金に至っては、すでに残業代の減少や業績悪化に伴うボーナス削減などの影響が出始めているが、肝心の基本給については今年度の企業業績が反映される今年の春闘でコロナショックの影響が織り込まれることから、永濱氏は「家計の所得環境の悪化はこれからが本番」とみている。
大和総研の神田氏は「経済損失の金額自体は昨年時より小さいとはいえ、企業の『肌感覚』としては見かけの数字よりも厳しいだろう」と指摘する。
財政支援の余地がそれほど大きくないことも課題だ。神田氏の試算では、昨年からのコロナ対策に関連する財政支援のうち、投資や事業活動維持への支援金を除く「経済的な資産として残らない支援金」はおよそ40兆円に上るという。国の財政支出の最大費目である社会保障関係費1年間分をしのぐ金額だ。
緊急事態宣言が1カ月以上に長引く、あるいは全国への対象拡大となった場合には「日本経済にとって、最後の一撃となる可能性もある」(神田氏)という。