[ニューヨーク 19日 トムソン・ロイター財団] – 米大手企業の間で、黒人を採用しようとする意欲が急激に高まりつつある。これは「黒人の命は大事」運動と結び付いた潮流だ。だが、専門家は、果たして米国の労働力の多様性実現に向けた持続的な変化なのだろうか、と疑問を投げ掛けている。
高度な技能を持つ黒人が登録している各種団体には、黒人従業員を雇いたいという企業からの問い合わせが殺到している。人種別の人口を反映した人員構成を目指すと約束する企業も相次いでいる。
全米黒人技術者協会(NSBE)、全米黒人MBA協会(NBMBAA)、ブラックス・イン・テクノロジーといった団体は、最近数週間で登録メンバーの採用を検討している企業からかかってきた電話が「3倍」になったと口をそろえる。
NSBEのエグゼクティブディレクター、カール・リード氏は「今は重大な分岐点で、後戻りすることはないだろう。私が白人男性たちと交わしているような会話内容は半年前、いや率直に言えば、4カ月前でさえ想像できなかった」と感慨深げだ。
黒人採用の動きが加速したのは、5月25日にミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫されて死亡した後、人種差別への抗議運動が全米に広がったことが影響している。
そうした中で今年6月、アディダスが今後5年間で新規雇用の30%を黒人と中南米系の労働者で充足すると宣言したほか、グーグル親会社・アルファベット>もリーダーシップ職で2025年までにマイノリティーを3割増やす方針を打ち出した。
先週にはアマゾン、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースを含めたハイテク、銀行、コンサルティング業界27社の経営者グループが、2030年までに低所得の黒人、中南米系、アジア系コミュニティーから10万人を雇用すると表明した。
しかし、NBMBAAのブルース・トンプソン暫定最高責任者をはじめとする複数の専門家団体トップは、米国の職場で人種的な平等を達成する上で、これらの取り組みだけでは不十分ではないかとみている。
トンプソン氏は「これは一時的な現象か、それともより永続的な変化なのか。米国における人種差別の歴史の悠久さは神のみが知り得るほどで、今まで多くの曲折があった。したがって現在の動きが長続きする変化かどうか、まだ分からない」と慎重な姿勢を崩していない。
米労働省によると、7月の黒人の失業率は14.6%、白人が9.2%で、格差は過去5年で最大に開いた。歴史的に見て黒人は最高給を得られる職種から排除されてきたという事実もある。
連邦政府機関の雇用平等委員会(EEOC)のデータは、米国全体で一番報酬の高い職種に就いている約90万人のうち、黒人の割合はたった3%前後だ。人口全体で黒人はおよそ13%に上る。
市民団体の有色人種向上協会(NAACP)幹部のマービン・オーウェンス・ジュニア氏は「こうしたシステムが根を下ろし、人々は異を唱えようとしたがらない」と指摘。企業が黒人採用の意欲を持っていることは「良い兆候」とある程度評価しながらも、「現実の事態が変わったのではなく、変わる必要があることを表している」だけだと付け加えた。
人種間の平等な雇用を推進する人々は、この目標実現には企業が黒人従業員の採用率、給与水準、地位向上の度合いを白人従業員と比較したデータを収集し、共有しなければならないと訴えている。
ブラックス・イン・テクノロジーを創設したグレゴリー・グリーンリー氏は「これらの数字を示してほしい」と語り、企業は黒人の採用が単に取って付けたような行動ではないと証明することが、不可欠になると強調した。
米国内で最近黒人の採用に取り組みだした企業の数、どれだけの黒人が雇われたのかに関する公式の統計は存在しない。
トンプソン氏は、新型コロナウイルスのパンデミックによって、本来はもっと労働力を多様化したいという企業の意欲が損なわれている部分があると分析する。それでも米国社会が人種差別的慣行に厳しい目を向ける中で、黒人の採用が関心を集めている現状を歓迎し「われわれの立ち位置を考えれば、これが何か良い結果をもたらすとの期待がある」と話した。