[17日 ロイター] – 新型コロナウイルス感染のパンデミックが起きてから破産申請した米大手企業は、ロイターが証券当局への届け出や裁判所記録、その他のデータを調べた限りで45社に上る。その約3分の1は破産申請までの1カ月以内に、駆け込みで幹部に特別賞与を支払っていたことが分かった。調査期間は世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言した3月11日から7月15日まで。社債か株式を上場し、負債が5000万ドル超だった企業が対象だ。
2005年破産法では、企業はごく一部の特殊な事情を除き、破産法適用中に幹部に引き留めのための賞与を支払うことは禁止されている。だが企業は、申請直前に支払うか支払いを承認するという「抜け穴」を利用した形だ。
破産申請前の1カ月に賞与支給を認めた14社の中で6社は、パンデミック中に幹部が事業面のさまざまな試練に直面したと説明し、支払いを正当化した。
賞与支給、あるいは支給承認の時期を破産申請の半年前までに広げると、45社中32社にまで数が増える。その半分近くは、申請前の2カ月以内に賞与支払いを承認した。
百貨店のJCペニーやレンタカーのハーツ・グローバル・ホールディングスを含む8社は、破産申請の5日前に賞与を承認し、シェールなどのフラッキング(水圧破砕法)用の砂を供給するハイクラッシュに至ってはなんと2日前に支払っている。
パンデミックに伴って846店の一時閉鎖と従業員8万5000人のうち7万8000人の休職を余儀なくされたJCペニーは5月15日に破産申請したが、その間際になって幹部向けに総額1000万ドル弱の賞与を支給することを認めた。同社は今月15日、152店の恒久的な閉鎖と1000人のレイオフを発表している。
JCペニーはこの件についてコメントを拒否した。ただ以前の公表文書では、パンデミック前に経営立て直しを進展させた「有能な経営陣」の流出を防ぐことが、賞与の目的だと説明していた。
他の多くの企業は届け出書類で特別賞与支給に関して、経済的混乱によって従来の報酬制度が現実とそぐわなくなった、あるいは特別賞与を受け取った幹部は他の報酬をもらう権利を放棄したなどと記している。
高級百貨店ニーマン・マーカスの場合は、3月の全店休業と4月の1万1000人を超える従業員の休職に先立ち、2月にジェフリー・バン・レムドンク会長兼最高経営責任者(CEO)に400万ドルを、また5月7日の破産申請前数週間で、他の幹部に計400万ドル強をそれぞれ支給したことが、裁判所記録から判明した。同社はコメントを拒否している。
最近1万4000人余りを削減したハーツは5月22日の破産申請の数日前に上級幹部に計150万ドルを、4月1日に破産申請した石油生産のホワイティング・ペトロリアムはその数日前に計1460万ドルを幹部に支払った。
こうした賞与は、破綻企業の雇用が減らされ、債権者が苦境に陥り、株主価値も消えてしまう中で幹部の懐だけを潤すことになるとして、根強い反対論にさらされ続けている。
3月には玩具量販店トイザラスの債権者が、17年の破産申請前に経営陣に賞与を支給していた問題で元幹部や取締役を提訴した。同社は18年に清算され、3万1000人以上が解雇された。被告側の弁護士は、破綻で経営陣に過大な負担やストレスがかかったことや、同社がリストラ後に事業を継続したいと思っていた点から、賞与支給は妥当だったと主張している。
米議会では今年6月、野党・民主党の議員がパンデミックで相次ぐ企業破綻を受けて、幹部に支払われた賞与を債権者が回収できる権利の強化法案を提出した。
司法省の破産手続き監視部門、USトラスティー・プログラムのディレクター、クリフォード・J・ホワイト・IIIは、駆け込みで賞与を支給する企業は、破産法適用下では裁判所が幹部報酬案に厳しい目を向けることを重々承知の上で行っていると指摘。しかしたとえ数日前であっても、破産申請手続きをしていない企業の賞与支払いを止める権限は会社管財人はないとし、結果的に企業が透明性の確保と裁判所の審査を逃れることを許していると嘆いた。
専門家によると、05年破産法で破産期間中、人材引き留め賞与を得る前には利害が別の転職のオファーを受けていることが義務付けられた。それ以降、企業は新たな賞与支給の手法開発を迫られたという。
08年の金融危機後に破産裁判所にしばしば提示されたのは、幹部が果たすべき再建目標に連動するインセンティブとしての支払いだという説明で、裁判官はこれをほとんど承認した。ただ司法省のUSトラスティー・プログラムは、これも偽装した引き留め賞与だとみなして異議を唱えてきた。
そこで結局、破産法適用下での賞与提案自体を避けるため、企業がたどり着いたのが駆け込み支給というわけだ。経営再建中の企業に助言を与えるコンサルティング会社アルバレス・アンド・マーサルの報酬問題専門家、ブライアン・カンバーランド氏によると、過去5年間で駆け込み支給をした企業は何十社にも達する。
企業側は、幹部が出て行ってしまえば事業運営が打撃を受け、最終的には債権者や従業員のリターンが低下する以上、引き留め賞与は重要な意味があると強調する。今では一部企業が、そもそもパンデミックが起きなければ事業が急降下することもなかったとの理屈を用いて、引き留め賞与を一層正当化している。
もはや株式報酬が無価値になり、コロナ危機前に設定された業績目標の達成が不可能になったので、別の形の賞与が不可欠になったとの説明も聞かれる。
それでも足元の危機のため、より良い就職の選択肢がほとんどなさそうなのであれば、そうした幹部への引き留め賞与はまず正当化できない、と複数の専門家は反論している。
ジョージタウン大学法科大学院で破産法を研究するアダム・レビティン教授は「失業率が2桁に上昇している局面で、引き留め賞与を支給するのは何とも奇妙だ」と話した。