[東京 16日 ロイター] – 株安の第2波は軽微に終わる可能性が出てきた。実体経済から乖離した株高の反動に新型コロナウイルスの感染再拡大への警戒感が加わった形だが、手厚い財政・金融政策のおかげで第1波のような流動性パニックは起きていない。しかし、その半面で国と企業の債務は拡大。売り上げが減少する「7割経済」で借金を返していけるのかという問題は徐々に大きくなっている。
株以外の市場は落ち着き
日経平均株価は6月9日の高値2万3185円85銭から15日の安値2万1529円83銭まで7.1%下落。3月19日の安値1万6358円19銭から41.7%上昇した反動に加え、新型コロナの第2波への警戒感が強まっている。
しかし、今年3月の株安第1波とは大きく異なる点がある。株以外のマーケットが冷静なことだ。米10年債金利は3月20日に1.28%まで上昇したが、今は0.7%台。日本の10年債金利はゼロ%近辺での推移を続けている。
第1波当時は在宅勤務の影響もあり、流動性不安から株も債券も金も、ありとあらゆる金融資産が売られる総現金化の動きが起きた。しかし、今は株売り・債券買いの「通常」のマーケットの動きに戻っている。
ドル/円も安定している。リスクオフ的にドルと円がともに買われる構図は変わっていないものの、1週間物のドル/円オプションのインプライド・ボラティリティーは3月12日に一時34ポイント台まで上昇したが、現在は6ポイント前後に低下している。
投資家の不安心理を映すボラティリティー・インデックス(VIX、恐怖指数)は、依然高水準とはいえ3月の半分程度だ。「第1波の時はほとんどのヘッジファンドが株ロングだったが、今回は一部しかロングを作れておらず、売りも限定的となっている」と野村証券のクロスアセット・ストラテジスト、高田将成氏は指摘する。
政策効果で不安後退
マーケットに恐怖感が広がらないのは、政策効果が大きい。各国が大規模な財政・金融・流動性供給政策を打ち出し、マーケットは「緩和マネー」がじゃぶじゃぶな状態だ。
米連邦準備理事会(FRB)はゼロ金利政策に加え、米国債などの無制限購入に踏み切った。さらに、短期国債の購入などを通じ、短期金融市場に流動性を供給。他国の中銀にも、通貨スワップを通じドルを供給している。
3月の局面で顕著だったのが「世界の通貨」ドル需要の高まりだったが、対円でのドルの需要を示すドル円ベーシス3カ月物は低下。3月19日に一時マイナス1.39%までマイナス幅(ドル需要超過)を拡大させたが、足元は0.25%まで縮小している。
さらに今回、特徴的なのは、中央銀行が企業金融支援に積極的に乗り出したことだ。社債やコマーシャルペーパー(CP)を積極的に買い入れることで、企業の資金繰りを直接・間接的にサポート。「銀行の銀行」という位置づけから大きく踏み出している。
財政では、世界で10兆ドル(約1070兆円)と言われる財政措置が打たれた。シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は「家計や企業への救済策という意味では、十分な政策がとられたと評価できる」と述べる。
政府・企業ともに膨らむ債務
しかし、すべて安心というわけではない。コロナ第1波に対する巨額な政策は、「債務」という別のリスクを膨らませている。
国際通貨基金(IMF)は4月に出した財政監視報告書で、2020年の各国政府債務の対国内総生産(GDP)比は前年比13.1ポイント上昇し96.4%に達する見込みと指摘した。各国の財政支出はその後も拡大しており、いずれGDPを超えるとみられている。
民間部門も債務を拡大させた。米国の資金循環統計をみると、米企業は年初から5月までの間に1.3兆ドル(約140兆円)の有利子負債を増加させた。5月末時点の対GDP比での有利子負債は50%を超えてきたと推計されている。
「コロナの影響で売り上げが減少する企業が、膨らんだ債務をきちんと返していけるかには不透明感が濃い。格付けが引き下げられれば、信用リスクにもつながりかねない」と、三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は指摘する。
金融緩和状況は当面続く見通しだ。低金利環境が続けば、債務の返済は容易になる。リーマン・ショック時と比べ、企業はコロナ前に債務を増やしていなかった分、借り入れ余地もある。しかし、多額の債務を抱えている間は、政府も企業も、設備投資や新規投資には慎重になりやすい。借金を返す「算段」はまだ立っていない。