青森県弘前市にやってきた。かつて城下町として栄え、今も伝統と文化が息づく落ち着いた雰囲気が魅力の街だ。教科書にも載っている、あの文豪が多感な時期を過ごした場所としても知られる。今回は、そんな歴史情緒あふれる弘前市の各地を巡った後、地域で強い支持を獲得している商業施設で食事をするというお話である。

歴史、文化の魅力が詰まった街 青森県弘前市
スタート地点は、JR「弘前」駅。駅前には「HIROSAKI」と書かれた写真撮影スポットにもなるサインが置かれ、気持ちが盛り上がる。「O」の部分が名産のリンゴの絵で表現してあり、しゃれている。
では出発だ。公共交通機関での移動も考えたが、自由に動き回りたいため、観光案内所で自転車をレンタルする。早速、最初の目的地へと向かった。
ゆっくりとペダルを踏み込むこと約10分。到着したのは「太宰治まなびの家」。小説家、太宰治(本名:津島修治)が1927年4月から1930年3月までの旧制高校時代を過ごした場所である。津島家の親戚筋にあたる家で、現存する大正時代の住宅地として価値があり、現在は市指定有形文化財に指定されている。
玄関の引き戸を右へそっと開くと、すぐ太宰の大きなパネルが置かれてあり、目が合ったように感じギョッとする。
主要な部屋には各種の写真や資料が展示されてあり、ゆっくりと見て回った。
急な階段を上がったところがいよいよ太宰の部屋である。壁には学ランや長い丈のガウンなどが掛けられており、臨場感がある。板間になっている窓際の狭いスペースは机が置かれ、ここがお気に入りの場所だったという。
ふと上を見ると何やら数式のような落書きが見える。解説によれば、なんと太宰の手によるものらしく、教科書に載っている文豪が急に身近な存在に感じられた。
「太宰治まなびの家」を後にし、次に向かったのは「禅林街」。禅寺(曹洞宗)が33も並ぶ、全国でも珍しい寺院街。かつて津軽地方を領有した弘前藩の藩主、津軽家ゆかりの長勝寺が最奥にあり、現地まで自転車で走ったがとても気分がよかった。
その後、弘前城はじめ各所を回り、短時間ながら弘前市を大満喫する。歴史、文化の魅力がたっぷりと詰まっており、青森県唯一の国立大学が同市に置かれているのも納得できる。
活発に動いたので、猛烈にお腹が減ってきた。次に目指すのは、出発地点である弘前駅近くの商業施設。そこで食事をすると思うと楽しみでたまらなくなり、私は自分の足が見えなくなるほど高速でペダルを漕いだ。
地元住民でにぎわう「虹のマート」
やってきたのは「虹のマート」。1956年開業の、おもに生鮮食品を扱う店舗が入居する市場だ。バスターミナルの向かいにあるものの、時間帯のせいか、前の道にはあまり人は歩いていない。
しかし市場に入り、驚いた。
多くのお客で賑わいまくっていたからだ。青果店、鮮魚店、総菜店はじめ、多種多様な店舗が集積し、見て回るだけでも飽きない楽しい雰囲気。来ているのは、一部には観光客の姿もあるが、大半は昔から通い慣れているベテランのお姉さま方だ。
施設内には無料の休憩コーナーがあり、そこで市場内で買ったものを食べられる。
あちこち回遊し、まず買ったのは鮮魚店に並んでいた海鮮丼。マグロ、ホタテ、イクラのほか、天然の特大赤えびも入っている。フタを開けるとこんな感じ。どうです、おいしそうでしょう。
少し醤油をかけ、まずはマグロから。いやぁ、これはたまらん。ご飯を一口頬張った後、赤えび、ホタテ、そしてごはんを食べた。おいしさのあまり箸の動きが制御できなくなり、味わいながらもすぐに完食した。
やや小ぶりの丼だったため、あと一品、何かを食べられそうだ。再度、あちこちを巡り、発見したのは麺専門店。一角が飲食ゾーンで、食事ができるようになっている。壁にメニューが並んでおり、そのうち「津軽 幻のそば」を注文した。
最高に食欲を喚起する見た目である。テーブルにあった一味を適度にかけ、いただく。うん、おいしい。つゆもあっさりとしており、京都人の私の舌にも合う。これもどんどん食べ進め、完食した。
満腹である。弘前市、とてもいいところだった。機会があれば、またゆっくり来てみたいと思った。