アート思考(プレジデント社)
著者:秋元雄史
プレジデント社/本体価格1,700円+税
街の書店には「○○思考」という本が多く目に留まるが、どれも「ビジネス課題」を解決するための指南書という側面が強い。モノがあふれ、複雑化した時代にいかにして生き延びていくかのパラダイムシフトが起きている証左であろうか。
秋元氏の「アート思考」はそんな思考法の書籍の中でも、アプローチが大きく異なる。
まず、冒頭で「アートとビジネスの発想の起点は大きく異なり、永遠に交わることはないかもしれない」と言う。また、ビジネスに生かすにあたり、アートで得た知識は、すぐにビジネスに生きるものではない、とも。
しかし、読み進めていくにつれアーティストの発想方法から、さまざまなヒントを得られることに気づかされる。
秋元氏はアーティストを「炭鉱のカナリア」であると表現している。カナリアは嗅覚が鋭く、有毒なガスが発生したことをすぐに感知し、異常を知らせる。アーティストは「時代の変化」「社会の問題」を敏感に察知し、それを作品に籠め、社会に警笛を鳴らす(≒異常を知らせる)。
その発想の起点は「なにが問題なのか」という問い。この思考がゆくゆくはイノベーションに繋がりうる、という。なるほどと思う。
「荒廃した未来における水筒を作る」という課題に、ビジネスパーソンは何を作るか?おそらく、素材の軽さや、冷却が長持ちするなど機能的な水筒を着想する人が大半であろう。
一方アーティストは?「生命維持に必要な最低限の水で足りうる人工臓器を作る」
この発想こそが、アート思考なのであろう。
今までのビジネス書とは一線を画す、これからの時代にアート思考が必要であると思わせてくれる書籍である。