「助かった」――。
100円ショップ「ダイソー」でお馴染み、大創産業(広島県)社長の矢野博丈さんは、真顔で言った。
創業以来、「会社とは潰れるもの」という考えを持って経営に当たってきた。慢心を嫌い、手を抜くことを戒めてきた。健全だった会社や業界トップにあった会社の傾いて行く様を嫌と言うほど見てきたからだ。
ところが7年間ほど前から「大創産業は倒産しないんじゃないかな」と考えるようになっていた。2011年3月期に3411億円を売り上げ、国内2620店舗、海外26カ国に587店舗を出店するようになったのだから、決して慢心ではなく、当然と言えば当然だ。自然、社内に向かっても辛辣な言葉を使うことがなくなっていったのだという。
気がつき振り向けば、キャンドゥ(東京都/城戸一弥社長)、セリア(岐阜県/河合宏光社長)など同業他社の激しい追い上げを食らっていた。商品、店舗、見せ方…どれをとっても自社に遜色を感じた。
「まずい。このままでは5年先に大創産業は存在しないだろう」。
「会社は潰れるもの」ということを一時でも忘れた自分を責めた。
冷静になって客観視してみれば、時代は大きく変わっていた。にもかかわらず、大創産業は、同じ商いを続けていたことに気付いた。
「過去に成功したビジネスモデルはもう古い。時代が変化しているのだから、企業のビジネスモデルも変える必要がある」。
大きく反省し、遅ればせながら手を打った。
本部隣接地に1000坪確保していた商談スペースを取りつぶし、若手社員や女性社員にどんどん重要な仕事を任せた。
そうしているうちに出てきたひとつの結論が昨年9月21日にオープンした広島市内にあるダイソー広島段原SC店だ。「ダイソーJapan」という新業態で売場面積は596坪。既存店舗との大きな違いは、コンビニエンスストア化にある。
「これまで100円ショップの楽しみは、『こんなものがある!』という探すことにあった。しかし100円ショップが生活に定着した現在は、どこに何があるかが瞬時に分からなければいけない。ショートタイムショッピングが求められている」。
こうした考え方から、主通路を広く取り、売場表示を分かりやすくし、単品を大量に陳列して売場にコンビニエンス性を持たせた。
また、ビジュアルマーチャンダイジングにも力を注ぎ、什器を変え、棚の裏側にバックライトを組み込むことで商品を浮き上がらせている。
商品開発手法も大きく変え、新しいカテゴリーへの取り組みを進めるとともに、従来の機能重視にデザイン性やカラーコーディネート性を加味した。ファンシー文具やおしゃれなマグカップ、ネクタイなどハイセンスの商品が並ぶようになった。
「ハロウィン」「クリスマス」「バレンタインデー」などにはシーズン売場を催事スペースで大きく展開して、購買意欲をあおる。
過去のダイソーから決別し、ひとつのかたちになったダイソー広島段原SC店を見ながら、矢野社長は冒頭の「助かった」という安堵の声を上げた。
「でも5年後は分からん」と今度は自戒も忘れていない。
矢野さんは、以前の貪欲な矢野社長に戻った。「会社は潰れるもの」という気持ちを新たにして、店舗巡回のたびにケータイ電話で写真を撮り、気付いたことを担当者に写メして苦言を呈する毎日だ。
ダイソー広島段原SC店をモデル店舗にして、今後100億円程度を投資しながら既存店改装に努めていくのだという。