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アングル:変わるか企業の価格設定、ダイナミックプライシング

横浜のニッパツ三ツ沢球技場
9月26日、スポーツ観戦など繁閑差が激しい業界で相次いで導入されている仕組みがある。需要に応じて価格を細かく調整する、ダイナミックプライシングだ。横浜の. ニッパツ三ツ沢球技場で14日撮影(2019年 ロイター/Kaori Kaneko)

[東京 26日 ロイター] – 日本では、長年にわたる物価低迷の出口がまだみえない。10月には消費税の増税も控えており、消費者は以前にも増して価格に敏感になっている。こうした中、企業は値上げが受け入れられやすい環境づくりに知恵を絞っている。

スポーツ観戦やホテルの宿泊など、繁閑差が激しい業界で相次いで導入されている仕組みがある。需要に応じて価格を細かく調整する、ダイナミックプライシングだ。

プロサッカークラブ横浜F・マリノスを運営する横浜マリノスは、昨年から観戦席の一部に人工知能(AI)を用いたダイナミックプライシングを導入した。これにより効果が認められたと判断し、今年から全ての席でダイナミックプライシングの導入に踏み切った。

横浜マリノスマーケティング本部FRM事業部部長の永井紘氏は「ダイナミックプライシングの導入前は、需要とそれぞれの試合の価値の最適な価格を見つけるのが難しかった」とした上で、「ダイナミックプライシングは、自由席よりも標準価格の高い指定席が自由席の価格を下回るケースもあるため、お客様の選択の幅が広がることが一番の魅力だ」と語った。

例えば3月2日の試合では、人気の席種であるメインSSS席のチケットは、通常価格の5400円から、試合約2週間前には7400円でまで上昇した。

横浜マリノスのファン歴10年超という川下浩司さん(34)は、チームがダイナミックプライシングを採用していることによる不都合は感じていない。「好きなことに対してはお金を払う。価値のあるものなら払ってもいい」という。

ホテルでも、宿泊料金にダイナミックプライシングを導入する動きが広がっている。日本でおよそ20のホテルを運営するセンチュリオンインターナショナルは、AIを使ったシステムで市場動向を見ている。

センチュリオンは、需要が旺盛な時期は価格を引き上げ、需要低迷期は値引きで空室率を下げるために、AIを導入した。

センチュリオンインターナショナルのレベニューマネージャー、文博信氏は「以前は得ることが難しかった競合他社の予約ペースを見ることができるので、それは画期的だ。大きなアドバンテージになったと思う」と感じている。

一部のエコノミストは、こうした技術の普及が全国的な物価上昇にどのような影響をもたらすか不透明だと指摘している。ただ、企業の動きは、価格設定の手法が静かに変わりつつあることを浮き彫りにしているのも事実だ。

東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出氏は「ダイナミックプライシングが拡大して、モノの値段は動くんだ、と人の受け止め方が変わってくると、需要が強い分野においては値上げをしやすい環境につながっていく可能性はある」とみている。

価値あれば高価格も受け入れ

価格戦略において、企業は工夫を凝らしている。牛丼チェーン大手の吉野家が8月に発売した「特選すきやき重」は、税込860円と通常の牛丼の約2倍に相当する価格設定だったにもかかわらず、約2週間で完売。同社の想定を大幅に上回った。

吉野家の広報担当、寺澤裕士氏は「超特盛、特選すきやき重のように少し価格が高くても、価値を感じてもらえれば支持されるという手応えは感じている」という。

低価格ヘアカット専門店「QBハウス」も料金を引き上げたが、事前調査と準備のおかげで顧客離れは回避した。

2011年以降の顧客調査に基づき、QBハウスは10分カットの料金をこれまでの1080円から1200円に引き上げた。人材を確保するための待遇改善が必要だったためだ。

値上げを実施して以来、顧客数は前年同時期と比べて2%減った。ただ、減少幅は同社の想定(6%減)よりは小さかった。

QBハウスを利用しているサービス業の三村一彰さん(34)は「全く問題ない。他と比較してもまだ安い。早く、きちんと仕上げてくれるので数百円の値上げならかまわない」と話した。