[東京 21日 ロイター] – 政府が21日に閣議決定した今年の「骨太方針」と「成長戦略」は、中途採用の推進や解雇法制整備など、大胆な雇用流動化推進への具体策を打ち出した。終身雇用や横並び賃金体系など日本型雇用からの転換を明示し、成長市場への転職を起点に日本全体の生産性向上を図る将来像を示した。従来型の「総合職」という働き方は終幕を迎え、技能活用型雇用への意識転換が迫られそうだ。
<働き方改革第2弾、産業界の提言反映>
安倍晋三政権が推進する「人づくり革命」は、今回の骨太方針・成長戦略で「フェーズ2」に突入した。
骨太方針は「ジョブ型雇用形態への転換」や「労働移動の円滑化」といった仕組みづくりにまで大きく踏み込んだ。途中採用の比率公表を企業に求め、解雇無効時の金銭救済制度などこれまで労働側の反発の強かった事案の検討を盛り込み、雇用流動化の促進を明確化した。
「終身雇用や年功序列型の日本型雇用慣行」からのモデルチェンジも掲げ、社会人でも学び直しによる情報化時代に即した人材育成を推進し、成長性の高い分野への転職が図れるように支援することも盛り込まれた。
第一生命経済研究所・副主任エコノミストの星野卓也氏は「ジェネラリスト育成を前提とした人事制度は社内の管理職育成の役割を果たしているが、社外でも通じる専門性スキルは身に付きにくく、転職が難しい状況を作り出している面がある」、「年功序列の給与体系や退職金制度は、勤続年数の長い人が有利な仕組みであり、転職インセンティブを削いでいる」と指摘する。
日本の従来からの労働慣行を覆すような欧米型雇用への転換は、経団連が昨秋とりまとめた労働政策に関する提言書の内容を反映している。
産業界では次世代型産業に向けて、社外や国外からの専門性に優れた人材採用が可能となる人事制度への転換が急務となっており、今回の骨太方針には、産業界の要望が色濃く表れた。
<消えゆく一般職>
足元の労働市場では、転職市場の拡大や専門人材を対象にした別枠給与体系などを採用する企業が増加している。厚生労働省の転職調査によれば、2013年以降、転職者は常用雇用者の10%台まで割合が上昇している。
もっとも、転職市場で募集が拡大しているのは、情報系や技能系に集中している。
人材紹介サイトのエン・ジャパンによると、35歳以上を対象とした人材募集では、技術系のプロダクトマネージャーや製品開発・研究職が2倍を超える勢いで伸びている。
テレワークのフリーワーカーの技術者が時給8000円で契約しているケースもあるという。
また、募集人員が増えている職種として、エンジニアやプロジェクトマネージャー、研究開発、建築設計、施工管理、医薬系のエンジニア、営業での医薬情報担当などを挙げた。総じて専門性の高い職種に人気が集まっている。
逆に減少しているのが、秘書や一般事務、財務などの管理部門系、経理や会計士・税理士、アナリスト・エコノミストといった職種だ。
エン・ジャパン広報の大原しおり氏によると、「総合職や一般職といった、これまで主流だった採用の時代はもはや終わった。漠然とした事務仕事は機械化、あるいは非正規雇用の仕事となっている」という。
実際、太陽生命では書類記入を全て機械化し、一般職の採用数をピーク時の4分の1以下に減らしている。
<求められるキャリア形成>
転職市場の拡大には、産業界の要望だけでなく、政府にとっても避けて通れない事情がある。労働力人口の減少が進む中で、能力の高い働き手を増やして所得を引き上げ、税収増と社会保障の「支え手」を増やさないと、社会保障や年金などの制度の持続性が危ぶまれることになりかねないためだ。
このため今回の骨太方針では、70歳までの高齢者雇用や30─40代の「就職氷河期世代」100万人の就職支援も打ち出した。政府関係者の1人は「人手不足解消には、働ける人には働いてもらうことが必要だ」と話す。
しかし、政府の大胆な「方向転換」に対し、企業、個人ともに意識改革が追い付いていないようだ。
エン・ジャパンの大原氏は「高齢者にスキルがあっても、企業はやはり若手を優先する。現役時代に役員クラスの経験でもない限り、清掃や警備といった職種に限定され、経験は生かせない例がほとんど」と説明。スキルを生かせる企業は少ない。
労働者にはスキル習得やキャリア形成の努力が求められ、雇用流動化の常態化や解雇もあり得る雇用環境の下で、精神的な緊張を強いられることにもなる。
佐藤博樹・中央大学大学院教授は「『ジョブ型雇用』への転換は、働く側にとって、勤務地や職務を自ら選び、キャリアを作る必要と自覚が求められる」と述べている。
(中川泉 編集:田巻一彦 )