[ロンドン 12日 ロイター] – 報道機関の既存ビジネスモデルはインターネットやモバイル端末の台頭によって破壊されてきたが、より深刻な問題は、人々がオンラインニュースにお金を払いたがらないことだ──。
ロイターのメディア研究機関がこうした調査結果を公表した。
世界人口の半分以上は現在、インターネット経由でニュースを読んでいる。
しかし「ロイター・インスティテュート・フォー・ザ・スタディー・オブ・ジャーナリズム」の年次デジタルニュース報告書によると、オンラインニュースにお金を払いたい人の割合は、過去6年間でわずかな増加にとどまった。
有料でニュースを読んでいる人々の間でさえ「サブスクリプション疲れ」が広がっている。利用期間に応じて料金を支払うサブスクリプションの余りに多くのサービスから支払を求められるのにうんざりしているのだ。また多くの人々は、ニュースよりも映画や音楽にお金を払うことを選ぶため、一部のメディア企業は破綻するだろう。
ロイター・インスティテュートの上席調査アソシエーツ、ニック・ニューマン氏は「大半の人々がオンラインニュースにお金を払うようになる兆しは見えない。インターネット上には往々にして圧倒的な情報があると認める人が多いにもかかわらずだ」と話す。
「一部の大手ブランドは既に、大勢の有料顧客を獲得できることを証明したが、他のメディアの先行きはもっと厳しいだろう」
多くの報道機関は一部の記事を有料化する「ペイウォール」を設けており、中にはデジタル版の契約者数が増えているところもある。しかしトランプ氏の米大統領就任で2016年から17年にかけて購読者が増えた「トランプ・バンプ」現象を除けば、オンラインニュースの有料購読者の割合にほとんど変化は見られない。
米国では、オンラインニュースの有料購読者は大卒で裕福な傾向がある。ニューヨーク(NY)・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、ワシントン・ポストのデジタル版は好調だ。
しかしロイター・インスティテュートが引用したVoxの記事によると、NYタイムズは、デジタル版の新規顧客の約40%がクロスワードと料理記事だけを購読している。
英国では、調査対象の約3割が欧州連合(EU)離脱問題が原因でニュースを避けるようになったと答えた。国民投票で離脱に投票した人々は、ニュースを読むと悲しくなるからだと答え、ニュースが真実を伝えているかどうか分からなくなったと嘆いている。
<娯楽サービスの脅威>
報道機関はネットフリックス、スポティファイ、アップル・ミュージック、アマゾン・プライムなど、動画や音楽を配信する娯楽サービスによる脅威にさらされつつある。
ニューマン氏は報告書で「一部の国では(中略)、大半の人々が限られた予算をニュースではなく娯楽(ネットフリックスやスポティファイ)に使いたいと考えている」と指摘。特に若年層でこうした傾向が目立つとしている。
報告書によると、今後1年間に1つだけメディアのサブスクリプションを選ぶならどれにするか、との質問で、45歳未満でニュースを挙げたのは7%にとどまった。37%はオンライン動画、15%はオンラインの音楽と答えた。
複数の報道機関のニュースをまとめて提供する「アグリゲーター」サービスも待ち構えている。「アップル・ニュース+」は、タイム、アトランティック、ニューヨーカー、ボーグといった雑誌やWSJ紙、ロサンゼルス・タイムズ紙の優良記事に定額でアクセスできるサブスクリプションサービスだ。
こうしたサービスを経由すると、報道機関は消費者との直接的なつながりが断たれ、有効なターゲット広告を打つのに必要な情報を得にくくなる。
ニューマン氏は「有料コンテンツのビジネスチャンスは広がっているが、大半のニュース提供サービスは利用者段階では今後も無料で、利ざやの低い広告頼みの状態が続くだろう。こうした市場を牛耳るのは巨大プラットフォームだ」と語る。
この市場では「消費者の関心を引くための競争が先鋭化し、ジャーナリズム的な評価は最も軽視され、生き残りのために最も重要なのは多角的な収入源とハイテク戦略ということになるだろう」という。
ロイター・インスティテュートは、メディアの潮流を調査するオックスフォード大の研究機関。