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一般社団法人 Pパレ共同使用会代表理事 滝本 修司
啓発活動や調査活動を継続することでPパレの流出防止と回収率アップめざす

加盟する企業のビール9型プラスチックパレット(略称:Pパレ)の適切な管理と共同使用促進に取り組んでいるのが一般社団法人Pパレ共同使用会(東京都)だ。ビール大手企業の協業をきっかけに、2004年に任意団体として設立された。13年には一般社団法人化し、より積極的にPパレの流出を防ぐために取り組んでいる。


一般社団法人化によってルール化を促進

 

一般社団法人 Pパレ共同使用会代表理事
滝本 修司(たきもと・しゅうじ)
1984年3月同志社大学法学部卒業。84年4月キリンビール入社。2009年3月営業本部営業部主幹。15年9月にビール酒造組合専務理事、一般社団法人Pパレ共同使用会代表理事に就任。

──まず、Pパレ共同使用会の設立に至る経緯を教えてください。

 

滝本 その前に、われわれが共同で管理しているパレットについて説明させてください。パレットは、物品の荷役・輸送・保管を目的に、単位数量にまとめて積載するための、上面と側面にフォークなどの差込口を有する、物流、流通になくてはならない荷役台です。従来は木製だったのですが、耐久性や環境保全の観点から、現在ではプラスチック製が使われています。

 

 プラスチックパレットは、業界や物流、保管方法の違いなどでさまざまな形、大きさが存在します。Pパレ共同使用会の加盟企業が使用しているビール9型プラスチックパレットは、900㎜×1100㎜のサイズで、酒類、飲料などの輸送、保管に使われるように設計されており、略してPパレと呼んでいます。

 

 Pパレの共同使用が始まる以前、ビール大手4社(サントリー、アサヒビール、キリンビール、サッポロビール)は、各々が独自のPパレを使用していました。各社が自社のPパレのみを使用し、回収も自社分のみを行うのが原則でした。仮に自社以外のパレットを回収してしまった場合には、他社のものと交換もしくは返却を行っていました。そのため、取引先では、Pパレをメーカーごとに仕分け、保管する必要があるうえ、メーカー側も回収時に選別作業を行うため、双方に負担がかかっていたのです。

 

 そこで1992年4月に大手4社が協力して、Pパレの共同使用と無選別回収(得意先からメーカーごとに選別することなく回収すること)を始めました。仕分け、選別を不要として、取引先様も含めたPパレを使用する企業の物流効率化に努めてきました。

 

 95年には加盟企業を他の酒類メーカーにも拡大し、2004年には任意団体としてPパレ共同使用会を設立したのです。

 

── 13年3月に一般社団法人化しましたが、どのようなねらいがあったのですか。

 

滝本 もともと任意の団体として設立したため、加盟社間や取引先との間でルールの明確化を図ることができず、Pパレの未回収や流出が多く発生していました。加盟社は新たなPパレを大量に購入せざるをえず、負担増になっていました。11年には年間で約30万枚超が回収できませんでした。金額にすると13億~18億円の損失となります。こうした状況の改善に向け一般社団法人化することで、加盟企業を組織化し、ルールを徹底させて回収率を高めようと考えたのです。

 

 15年12月1日現在、ビール、日本酒、焼酎や飲料メーカー92社が加盟しており、年間で約4000万枚のPパレが加盟社の製品出荷に使用されています。

 

Pパレの動きを可視化し流出の原因を探る

 

── 社団法人化によって、Pパレの回収率は改善したのですか。

 

滝本 10年ほど前は、今よりも回収率が高かったのですが、この数年でジワリと低下していました。社団法人化した13年には未回収枚数が16万枚に減少したのですが、14年は28万枚となりました。15年は改善する見込みです。

 

 14年の回収率は99.3%でした。未回収分は0.7%に過ぎないと思われがちですが、前述通り、金額に換算すると十数億円の損失になります。14年に未回収枚数が増えた理由は明確に特定できていませんが、その多くはPパレの不正使用によるものだと見ています。不正使用にはいろいろなケースがあります。店舗の在庫商品の整理のために使われていたり、倉庫の風除けとして使用されていたりするケースもあります。Pパレが頑丈なために、そのまま陳列台として使用したり、無断で切断して別の用途で使用している小売業者もありました。

 

 また、取引先の小売業者がプライベートブランド(PB)を製造するようになり、その輸送や保管を行うためにPパレを使用することも増えているようです。こうした状況を改善するため、14年6月から「Pパレ共同使用会共通受払いシステム」および「Pパレ共同使用会指定伝票」を導入しました。

 

 「Pパレ共同使用会共通受払いシステム」とは、加盟企業と卸売業者、物流業者がパレットの出荷・回収データを共通のシステムを活用して受払いするという仕組みです。物流のそれぞれの過程でPパレの情報をインプットしてもらうことで、加盟企業から出荷した枚数、回収できた枚数を明確に把握することができます。以前はPパレがどこにあるのか確認するのが難しかったのですが、システムを導入することでPパレの出荷、回収状況が可視化されたため、流出への対策をいち早く打てるようになりました。

 

 また、これまでPパレに印字されていた表記は企業によって異なっていましたが、一般社団法人化後に表記を統一し、各社のロゴマークと社名に加え、「譲渡・無断使用一切禁止、一般社団法人Pパレ共同使用会 管理」と記載するようにしました。「Pパレ共同使用会指定伝票」はロゴマークとPパレ共同使用会指定伝票の表記があり、出荷用と回収用の2種類を用意しています。回収についてはこの指定伝票を持った物流業者にPパレを戻すことを徹底することによって、流出を防いでいます。

 

 流出によってPパレが不足した場合、商品を製造しても工場から出荷できないばかりか、製造ラインにまで影響して店舗に商品が届かない事態にもなりかねません。製造から店頭までの商品の動きをスムーズにするためにも、Pパレの円滑な回収は必要不可欠です。

 

── Pパレの出荷と回収の枚数の差が大きい場合は、どのような対応をしているのですか。

 

滝本 たとえば、ある取引先の物流センターからの回収率が低い場合、連絡して、回収率の低い理由をお聞きします。原因がわからなければ、許可をいただいて、実際にそのセンターを訪問。そのセンターに2日間にわたって張り付き、調査を行っています。

 

 まずは、パレットがどのように保管、使用されているのかチェックさせていただきます。次に、Pパレに商品を載せて納品する企業とPパレの枚数を確認します。その際、加盟企業以外からPパレが入ってくる場合もあります。つまり流用されているということです。

 

 そして、センターから小売店や物流業者へ出荷、回収されるPパレの枚数をチェックします。すると、取引先の別のセンターに転送されていたり、小売店から戻ってこないことがわかってくるのです。

 

 われわれは「メンテナンスプログラム」と呼んでいるのですが、外部企業に委託しているこの調査によって、Pパレの流出先をほぼ明らかにすることができます。今後も継続的にメンテナンスプログラムを実施することで、Pパレの流出を減らしていきたいと考えています。

 

 これまではPパレを回収することに重点を置いていましたが、今後は「蛇口を閉める」ことも重視していきます。つまり、メンテナンスプログラムを使って、Pパレの回収が懸念される先に改善をお願いして、流出そのものを減らしていくという考えです。

 

── Pパレを不正使用している事業者に対して、どのように返却を促すのですか。

 

滝本 社団法人化したことにより、Pパレ共同使用会は法的根拠に基づきPパレの返却を容易に主張することができるようになりました。当初の目的外で使用されている場合には、その事業者にPパレの返却を求めます。説明に伺えば、多くは即座に返却に同意いただけます。加盟企業が直接返却を呼びかけるよりも、Pパレ共同使用会が返却を求めることで、円滑に処理できる場合もあります。

 

 また、社団法人となることで、悪質な不正使用者に対しては、対抗措置として訴訟に持ち込むことも容易になりました。15年からは不正使用(保有)者に対する返還交渉活動に力を入れています。15年末には、1年間以上も返還交渉を行ってきたPパレを大量に不正保有する事業者に対して、Pパレ返還のための法的措置の対応の実施に踏み切りました。一般社団法人化後、初めてのことです。Pパレ共同使用会が債権者として仮処分の申し立てを行い、裁判所から仮処分執行の決定が出されました。保全執行の実施後に、債務者からすみやかに返還の申し入れがありました。今後はこの結果を踏まえ、不正に使用、保有している事業者に対しては、法的措置を対抗手段として活用していく方針です。

 

 ただ実際には「不正使用をしている」という認識がない場合がまだまだ多いのです。酒類の販売先である小売業者にとっては、Pパレを返却しなくてはいけないものという認識があまりないのが現状です。これを改善するため、啓発活動に力を入れていきます。流通関係の人々がよく目にする雑誌や新聞に啓発広告を出稿して、「Pパレは加盟社の所有物であり、加盟社以外の商品の輸送や保管以外の目的で使用することは違法です」とわかりやすく伝えていく考えです。

 

地道な啓発や調査を続けPパレ回収をめざす

 

── Pパレ共同使用会に加盟するメリットは大きいと思われます。加入を希望する場合は、どのような手続きを踏む必要があるのですか。

 

滝本 Pパレ共同使用会では、加盟社は「主に日本国内において酒類、飲料、食品の製造・販売等を業とするもの」という規約を設けています。

 

 加盟される企業には、まず3年間を準会員として活動いただき、その後、正会員となっていただきます。準会員、正会員ともに必要なPパレを購入いただくことに変わりはありませんが、会費の負担方法が異なります。準会員の場合、パレット協力金という名目で出荷枚数当たり10円をご負担いただきます。正会員は、使用会の年間運営費のうち、使用会のPパレ総出荷枚数に占める比率分を負担いただくかたちです。すべての活動費が、加盟社からの費用で賄われています。

 

 準会員というクッションを用意したのは、正会員になる前に投入が必要なPパレ枚数を正確に把握するためです。自社が使用する枚数を購入して共同使用会に投入していただくことが、不正使用をなくすことにつながっています。

 

 Pパレ共同使用会は社団法人化して2年しか経っていませんが、自ら所有するPパレを確実に回収したいという加盟社の思いを実現するため、啓発活動や調査活動を地道に続けていく考えです。そのことが加盟社のメリットにつながると確信しています。