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QVCジャパン 代表取締役社長 佐々木 迅
独自商品を増やし、「究極の対面販売」に磨きをかけて成長を図る!

テレビショッピングを主体とした通信販売業を展開するQVCジャパン(千葉県)は、ジュエリーや衣料品、ヘルス&ビューティケア(H&BC)、食品など常時2万4000アイテムを販売している。24時間の生放送でお客に商品を提案。売上高を伸ばしている。2011年4月には、プロ野球の千葉ロッテマリーンズの本拠地球場の施設命名権(ネーミングライツ)を取得し、呼称を「QVCマリンフィールド」とした。そのそばに本社を構える同社の佐々木迅社長に事業戦略を聞いた。

聞き手=下田健司 構成=小木田泰弘(以上、チェーンストアエイジ)


売上の93%はリピート客が占める

──2014年は4月に消費税増税が実施され、流通業界にとっては激動の1年になりました。

 

QVCジャパン 代表取締役社長
佐々木 迅(ささき・はやし)
1953年生まれ。東京都出身。77年慶應義塾大学法学部卒業。同年三井物産入社。96年ムービーチャンネル取締役。98年キッズステーション社長。2000年6月、QVCジャパン設立とともに代表取締役社長に就任(現任)。12年6月日本通信販売協会会長(現任)。

佐々木 QVCジャパンにも消費税増税は大きなインパクトがありました。

 

 当社は、14年3月にまとめ買いができるような商品を提案したり、毎年4月の第1週に行っている開局記念の「バースデイ特番」を3月末に前倒ししたりしました。その結果、14年3月は駆け込み需要をしっかりと取り込むことに成功しましたが、4月以降は反動減が長く続きました。

 

 QVCジャパンが扱っているのは、食品や日用雑貨など毎日の生活に必要な商品というよりは、生活をより豊かにするようなライフスタイル商品が多くを占めます。その分、お客さまの消費マインドが冷え込んでしまうと、食品や日用雑貨を中心に扱う業態よりも大きく影響を受けます。

 

 百貨店や専門店も同じような状況だったと思います。日本通信販売協会(東京都/佐々木迅会長:以下、JADMA)加盟企業の売上高推移も同様の傾向が見られますから、当社もそのトレンドから大きく外れてはいません。

 

──QVCジャパンは、01年4月に放送を開始。13年12月期の売上高を対前期比0.3%増の1000億円と発表しています。

 

佐々木 当社は、2000年に米国ペンシルバニア州に本社を置くQVC社と三井物産が合弁で設立。01年4月1日午前8時に放送を開始しました。

 

 04年には国内のテレビ会社では初めてとなる24時間連続生放送をスタートしています。現在、QVCの番組はケーブルテレビやCS、IPTV(インターネットテレビ)、携帯電話などを通じて24時間いつでもどこでも視聴することが可能です。また、パートタイム放送では、BS放送局の「TwellV(トゥエルビ)」と「BS日テレ」でも放送されています。

 

 放送開始の頃と比べると、今はお客さまのテレビショッピングに対するとらえ方が大きく変わったと感じています。創業当時のテレビショッピングは、ある番組と番組の間の数分間に、単品または複数品を販売するような形態が主流でした。演出面でお客さまの購買意欲を盛り上げ、商品の値段を最後に明らかにするような販売方法が一般的でした。

 

 このようにスポット的に商品を販売するテレビショッピングを米国ではインフォマーシャル(Infomercial)と呼んでいます。インフォマーシャルとは、インフォメーション(information)とコマーシャル(commercial)を合わせた造語で、テレビCMの一種と消費者に認識されています。そこで購入されたお客さまは、どのチャンネルを観ていたかは覚えていますが、番組名や商品を販売していた企業名はほとんど記憶に残っていないものです。

 

 一方で当社は、Quality(品質)、Value(価値)、Convenience(利便性)を徹底してお客さまにお届けしようという理念が、そのまま社名となっています。スポット的なテレビショッピングでは、お客さまがもう一度利用しようと思っても、なかなかアクセスできません。

 

 しかし当社は24時間生放送であり、プログラムガイドもありますから、お客さまはいつでも好きな時間にQVCの番組を観ることができます。これは、“なじみの店”のような感覚に近いと考えています。実際、当社の売上の93%はリピートのお客さまによるもので、一般の小売店と同じようなビジネスモデルと言えます。

 

常時2万4000アイテムの商品を販売

──スポットのテレビショッピングは目玉商品をメーンに販売している印象ですが、QVCは根本から異なる。

 

佐々木 そうです。当社はジュエリーや衣料品、ヘルス&ビューティケア(H&BC)、食品など常時2万4000アイテムを取り揃えていて、そのなかから好きな商品をいつでも購入することができるようになっています。

 

 

 当社には約1680人の従業員がいます。「カスタマーコンタクトセンター」と呼ぶコールセンターや配送センターの運用、商品の在庫管理や生放送の番組制作・放送を行っていますから、それだけの人員が必要になります。そしてお客さまに繰り返し利用していただける“お店”になることに注力しています。

 

 当社のお客さまは40~60代の女性が中心で、女性の利用が90%以上を占めます。1日のなかにはピークタイムがいくつかあり、大まかに午前7時~10時、夕方の17時前後、そして夜の22時~25時が比較的多くのお客さまが番組を観ています。

 

 最も視聴者が多いのが午前0時からの番組です。そこではその日限りの目玉「TSV(TODAY’S Special Value)」商品の第1回目の紹介が行われます。ですから、多くのお客さまがどんな商品なのかを確認するために観ています。

 

 「TSV」商品は1日に数回紹介しますが、基本的には番組ごとに異なる商品を毎日販売しています。

 

 お客さまは1回の注文で平均2個弱を購入します。利用単価だと平均1万2000円前後になります。送料がかかりますから、いつも利用している健康食品などがなくなるタイミングで“ついで買い”も多くあります。

 

 注文方法はいくつかあり、「カスタマーコンタクトセンター」にお電話をいただいたり、インターネット経由でもオーダーできるようになっています。

いろいろな商品がまんべんなく売れることを重視

──面白いビジネスモデルだけに、品揃え(=マーチャンダイジング)は難しいのではありませんか。

 

佐々木 そうですね。とくに留意しているのは、特定の商品やカテゴリーに偏らないようにすることです。

 

 創業直後は、ジュエリーの比率が高く、その後、健康食品、衣料品などが増えていきました。当然、商品にはブームのようなものもありますが、何か1つの商品を大量に販売するようなスタイルはとっていません。むしろ、いろいろな商品をまんべんなく売ることによって、売上を積み重ねていくことを重視しています。

 

 QVCは米国やイギリス、ドイツ、イタリアでも同様の事業を展開していますが、品揃えや売れ筋は各国によって異なります。たとえば米国はDIY(Do It Yourself)やアウトドア関連の商品が多く売れますが、日本は住環境や生活スタイルが異なるので米国ほどは売れません。日本のQVCは、ほかの国と比べてジュエリーの比率が高いことが特徴です。

 

──品揃えに携わる従業員は何人くらいいるのですか。

 

佐々木 当社のバイイングチームには約100人が在籍しています。百貨店や各種専門店、総合スーパーなどで仕入れに携わってきたメンバーが大半です。

 

 当社のビジネスモデルは、ケーブルやCS、BSなどのテレビ局の番組枠を押さえたり、配送センターの運用や番組制作など、売上に関係なく発生する費用がとても大きいことが特徴です。

 

 ですから、事業リスクを負っている分、商品の在庫リスクは取っていません。現在販売している2万4000アイテムは委託販売が中心になります。

 

商品の価値をお客に伝達する

──QVCジャパンは、2003年にEC(電子商取引)サイトを開設。14年10月からは動画配信サイト「YouTube」で、QVCの生放送のテレビ通販番組のライブ配信を開始しています。現在は、どのような施策に力を入れていますか。

 

佐々木 大きく3つあります。

 

 1つは、独自商品の開発です。

 

 ほかにはない商品を取り揃えることは、QVCで購入してもらえる大きな動機になります。商品開発は企画会社とタッグを組んで行う場合もあります。売れ筋はファッションのカテゴリーです。現在、ファッションのカテゴリーは全体の売上の45%ほどを占めています。

 

 2つめは、商品の正確な情報をしっかりとお客さまにお伝えすることです。

 

 QVCが力を入れているのは、メーカーの担当者にゲストとして番組に出てもらい、商品の特長をお客さまに説明していただくことです。社名のとおり、商品のQuality、Value、Convenienceをしっかりお客さまにお伝えすることを最も重視しているからです。ゲストは必ずしも説明の仕方がうまいわけではありませんが、その商品についてはいちばん詳しく知っています。

 

 たとえば、新潟・燕三条の鍋は、外国製のものと比べて数倍~数十倍も値段が高いのにもかかわらず、当社ではとてもよく売れます。それは、商品の特長をしっかり説明しているからです。

 

 工場での製造工程を撮影して番組で放映し解説。鍋の断面や構造も示して熱伝導率が高いことをわかりやすく説明します。そのようにして価値のある鍋だとお客さまに理解していただいているのです。

 

 店舗小売業では、商品知識を持った従業員が少なくなってきているように感じています。ローコスト運営に力を入れて店頭に人員を配置しないとなると、商品のアピール要素は価格だけになってしまうかもしれません。

 

 また、特定の商品について詳しい従業員がいても、取り扱っているすべての商品の特長を正しく理解できるようになるまで育成することはとても難しいと思います。その点、QVCはその商品についていちばん詳しいゲストが番組で説明します。これはいちばん説得力のある方法であり、私は「究極の対面販売」だと思っています。

 

 そして3つめの施策は、お客さまとの結びつきを強める取り組みです。われわれは店舗を持っていませんから、お客さまとの接点は基本的には「カスタマーコンタクトセンター」に限られます。ですから、「お客さまに選ばれるチャンネル」になることをテーマに掲げ、お客さまとの接点を増やすことを目的にさまざまなイベントを実施しています。

 

 たとえば、衣料品をメーンに提案する「ファッションデー」では、観覧番組をつくり、実際にお客さまに当社のスタジオにお越しいただきました。

 

 当社のファンの方は、番組に出演しているゲストに親しみを持っていますから、楽しみに観に来られます。番組観覧の後は懇親会も開催したりしています。

 

 このようにお客さまとの接点をもっと増やしていきたいと考えています。

 

──さて、通販業界全体は、「Amazon.co.jp」や「楽天市場」をはじめとしたインターネット通販の隆盛により市場が大きく拡大しています。テレビショッピング市場の成長性をどのようにみていますか。

 

佐々木 われわれの番組を観ることができるのは約3500万世帯です。日本の総世帯数は約5200万ですから、7割弱の世帯にリーチできることになります。当社の実際のお客さまは約500万人に過ぎませんから、事業を拡大できる余地は大いにあると言えます。

 

 またテレビショッピングの売上規模は、JADMAによると約5800億円になります。

 

 これは、韓国とほぼ同じマーケットサイズだと言われています。韓国のテレビショッピングは、家電製品がいちばんの売れ筋になっていますが、人口は日本の半分以下の5044万人です。ですから日本のテレビショッピング市場が1兆円になってもおかしくはありません。

 

 地道な広報活動やプロモーションなどによりQVCの認知を広げて、テレビショッピングの売上を大きくしていくことは十分可能だとみています。