【ニューヨーク時事】家畜の細胞から作った「培養肉」の研究開発が世界的に活発化している。人口増に伴う食料危機の回避に加え、大量の飼料が必要な畜産と比べて環境負荷の軽減につながるとの期待があるためだ。これまで世界で唯一販売が認められていたシンガポールに続き、米国での流通も6月に決まった。ただ、大規模な普及には量産体制の確立によるコスト低減が欠かせない。
培養肉は、家畜から取り出した細胞を栄養分を含む培養液に入れ、増殖させたものを加工して作られる。オランダの大学教授が2013年に発表した培養肉のハンバーガーは、生産コストが1個当たり25万ユーロ(約3900万円)と高額だったことが話題となった。米欧を中心に現在、世界の約150社が研究にしのぎを削り、日本では食肉大手の日本ハムなどが商用化を目指している。
培養肉が注目を集める背景には、持続可能な食肉供給が揺らぐとの懸念がある。国連の推計では、世界の人口が22年の80億人から50年には97億人に増加。土地などの制約から生産量が限られる食肉の需給逼迫(ひっぱく)は必至だ。
大量の飼料を消費し、家畜がげっぷをして温室効果ガスを多く排出する畜産業への批判が世界的に強まっていることも、培養肉普及には追い風だ。
米農務省から販売の認可を得た新興企業イートジャスト(カリフォルニア州)は、首都ワシントンのレストランで培養鶏肉を近く提供する。ただ、開発途上で相当割高なためスーパーなどでの展開は難しいとされる。同社は「大規模な販売ができるよう生産効率を高める」(担当者)としている。