セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)は10月21日、同グループのキャッシュレスサービス「nanaco」についてApple Pay(アップルペイ)による決済を可能にすると発表した。 同じ日にイオン(千葉県/吉田昭夫社長)も、同グループの「WAON」について年内のApple Payとの提携を発表した。流通2大グループのペイメントがApple Pay対応することの意味とねらいを考えたい。
Apple Payが支える顧客基盤と生産性
セブン&アイ・ホールディングスは連結売上6兆円前後、イオンと国内トップの座を競い合う企業だ。祖業の洋品店「羊華堂」開業は1920年、高度成長期にはスーパーマーケット(SM)をチェーン展開し消費者の支持を集めた。コンビニエンスストア(CVS)チェーンを国内で始めたのもセブン&アイグループだ。現在ではCVSやSMの他にも、総合スーパー(GMS)、百貨店など幅広い業態を展開している。
長く続いた国内の経済停滞・少子高齢化もあり、GMS業界はどこも苦しい。成長してきたCVSも、最近では頭打ち傾向がはっきりしてきた。セブン&アイグループは、前回(2016年-2020年)の中期経営計画においても、主な業績目標を未達に終わらせた。営業利益は4242億円(目標4500億円)、ROE(自己資本利益率)は8.5%(目標10%)といずれも目標を下回った。今期(2021-2025)の中期経営計画では同社は挽回を期し、EBITDA(税前・利払い前・減価償却費前利益)1兆円、ROE10%以上、EPS(1株当たり当期純利益)の年平均成長率15%以上の目標を掲げる。目標達成に向けて、海外CVSの展開、国内CVSの成長回帰、GMS拠点店のテコ入れなどを進めるわけだが、事業展開に欠かせないのが「顧客基盤構築」と「生産性強化」であり、両者を支える重要なサクセスファクターの1つがApple Payだ。
イオングループの内情も、セブン&アイと大きくは変わらない。むしろ高収益のCVSが業績を大きくけん引するセブン&アイと比べると、イオンの収益性は見劣りする。イオンも前中期経営計画(2016-2020年)の売上・利益計画は大きく未達に終わった。起死回生を期す今中期経営計画(2021-2025年)では、成長戦略の1番目に「デジタルシフトの加速と進化」を掲げている。「店舗・デジタルが融合したシームレスな顧客体験」を実現するためにも、「WAON×Apple Pay™」は必須要件なのだ。
Apple PayとセブンアイのDX戦略
セブンアイは中期経営計画の中でDX(デジタル変革)を重要戦略の1つとして掲げている。
目的の1つが顧客基盤の構築だ。GMSやCVSでは、今までPOSによる販売情報(いつ・どこで・何を)をもとに売れ筋・死に筋を把握、商品開発や店舗陳列に役立て、売上増につなげてきた。一方で、POS情報だけでCRM(顧客関係管理)の実現は不可能だ。「誰が」買ったかの情報が欠けているからだ。
だからこそカードや電子マネーによるポイントサービス等で顧客囲い込みを測るわけだが、自前の決済サービスだけでは普及に限界がある。だからこそ利用者拡大をめざし、世界的な電子決済プラットフォーマーであるAppleとの提携を決めたわけだ。現時点でAppleを利用した決済は年間ランレートベース(直近実績値の傾向がそのまま続くと仮定した数値)で150億件に達する予定で、これは世界シェアの5%に相当する。 AppleのCEOのティムクック氏は、今後5年間に10%まで伸びると予測している。
生産性の向上にも、Apple Payは大きく寄与する。ここ数年、CVSの人手不足は慢性化している。人手不足解消・生産性向上の決め手として期待されているのが、お客自身のスマートフォンで会計を完了する「スマホレジ」だ。電子マネーが浸透すれば、スマホレジのさらなる導入拡大も視野に入ってくる。現金の取り扱いがなくなれば、スタッフの業務負荷も大きく軽減される。
nanaco&Apple Pay利用のメリットと課題
nanaco&Apple Payはiphoneならiphone8以降、アップルウオッチなら Series 3以降で利用可能だ。具体的なメリットや課題をみてみよう。
<メリット>
nanaco&Apple Payの大きなメリットは、チャージのしやすさだ。いままでのnanacoでチャージするには、ATMやレジを通す必要があった。nanaco&Apple Payでは、クレジットカードを登録しておけば、いつでもどこでもチャージができる。
<課題>
nanaco&Apple Payについて、課題は「利用の範囲」だ。まず利用カードだが、VISAについてはセブンカード以外が今のところ対象から外れる。加えて、グループが運営するECサイト「セブンネットショッピング」は、Apple Payでの決済ができない。
いずれも、Apple Pay自体の問題というよりセブン&アイグループ内部の事情に起因しており、早急な改善が望まれる。