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「デジタル化と小売業の未来」#4 これからは目的来店性のある店舗づくりが必須!

ECなどのデジタル化が小売業に与える影響やその対応策などを紹介し、これからめざすべき小売業の姿を提示する連載「デジタル化と小売業の未来」。第3回では、消費者の来店前の意思決定プロセスがどのように変化しているのかを説明しました。今回は、消費者にECではなくリアル店舗を選んでもらうにはどうすればよいか解説します。

dragana991/istock

来店する目的は人によって異なる

 今回注目すべきポイントは、「来店する理由(ショッピングパーパス)は人によって異なり、必ずしも合理性だけを追求しているわけではない」ということです。

来店する目的は人によってさまざまだ

 マーケティングの事を難しく考えていると意外と見落とされがちなのですが、店舗に行く理由を考えると、実は多くの人が「単に欲しい物を買えればよいわけではない」ことが見えてきます。

 たとえば、急いでいれば価格が高くても近い店舗で買うこともあるでしょう。喉が乾いていれば、30分もかけて遠い店には行かず、多少高くても近場で購入します。そうしたニーズに対応しているのがコンビニで、スーパーなどと比較すると安くないにもかかわらず多くの人が利用しています。

 また、新しい情報を得るために来店する人もいます。コスメなどのトレンド商品が並ぶプラザのような店舗は新しい発見の場になります。絶対に買うとは限らないけど、韓国のコスメなど、暇があれば店舗に行ってトレンドをチェックする人もいるでしょう。

 このように、店舗に行く人は単に商品を買うだけでなく、さまざまな目的があります。「新しいものを発見したい」「時間がないなかで少しでもよいギフトを選びたい」など、消費者のニーズに対応し、リアル店舗は「AmazonなどのECにはない価値」を高めていく必要があるのです。

ディスティネーションストアをめざす

 世界的スポーツブランドの「NIKE(ナイキ)」も、来店動機の創出に力を入れています。自分好みのスニーカーをオーダーできたり、アプリを通して蓄積されたトレーニングデータを使って店員と話しながら購入する商品を決めることができたりするなど、「もっと自分にあった商品に出会う」という消費者の目的を叶える取り組みにチャレンジしています。消費者にわざわざ店舗に行く気にさせる仕組みをつくるためにNIKEは莫大な時間とコストを投資し、目的来店性のある店舗(ディスティネーションストア)をめざしているのです。

NIKEはさまざまな手段でリアル店舗への目的来店性を高めている

 こうした目的来店性のある店舗は珍しくなくなっており、大手カフェチェーンの「スターバックス」も該当します。近場で済ませるのではなく、わざわざ行きたい店としてスターバックスを挙げる方は多いでしょう。多少高くても、大きなソファでゆったりくつろげるほか、PCやスマホを充電することができるなど、消費者が店舗に行く目的を創出することを重要視しています。

 飲食店では、「マクドナルド」や「吉野家」もよくできていると思います。マクドナルドに行く人は、単にハンバーガーだけを目的にしているとは限りません。家族で来店し、おもちゃをもらえるメニューを子供のために注文したり、それによって子供が笑顔になったりすることに価値を見出している人もいます。また、ハンバーガーを食べてストレス発散をしたい人もいるでしょう。

 では、吉野家のランチはどうでしょうか?急いでいるから30分以内でお腹をいっぱいにしたいと考える人は少なくないでしょう。来店するタイミングによっては、時間がかからないことが価値になります。

マクドナルドや吉野家には顧客が来店する価値が多くある

目的来店性の高い店舗は顧客の滞在時間が長い

 近年体験型ストアが重要視されているのも、こういった文脈が背景にあります。体験価値が高い店舗は「目的地化」されやすく、それ以外のモノはAmazonなどのECで購入すればよいと消費者は考えているのです。

 新鮮な顧客体験だけでなく、たとえば新しい商品が常に入れ替わることも1つの価値になります。今でも百貨店が一定の支持を得ているのは、デパ地下のさまざまな食材やギフトショップに来店価値があるためです。母の日のプレゼントやお中元・お歳暮など、ギフトを送るときに適した場所はほかにあまりなく、百貨店が生き残っている要因の1つとなっています。

 目的地化された店舗にはほかにも利点があります。たとえば、目的をもって来店した人は偶然来店した人よりも滞在時間が長い傾向にあります。滞在時間が長いと、購入する確率や購入単価が上がると言われているため、売上アップにつながります。

 また、複数人で来店したほうが、1人よりも滞在時間が長くなるという統計もあります。そのため、2人以上で来店してもらう目的を与えることも重要な戦略になります。

 消費者はモノ自体だけではなく、それに付随する価値にもお金を払っています。消費者が来店する目的となる「価値」をつくりだすことが、これからのリアル店舗には求められているのです。

 

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。