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「デジタル化と小売業の未来」#1 小売におけるデジタルインフルエンスの重要性

日本のEC市場は10兆円を超えてまだまだ伸びると言われており、それは疑う余地もありません。とはいえ米国や中国と比べて、日本のECは小売全体に占めるシェアがまだまだ低く、現在全体の8%程度と言われています。しかし、小売各社は単純にシェア8%という数字を軽視していると、取り返しのつかない状況になってしまう可能性があります。本連載では、ECなどのデジタル化が小売業に与える影響やその対応策などを紹介し、これからめざすべき小売業の姿を提示します。第1回目のテーマは「デジタルインフルエンス」。ECを含むデジタル化が消費者にどのような影響を与えているかを解説します。

peterhowell / iStock

シェア以上に大きな影響を及ぼす「デジタルインフルエンス」

 単純なEC化率(すべての商取引市場規模に対するEC市場規模の割合)を見ると、米国で約12%、中国ではやや特殊で50%に達していると言われています。ここで重要なのは「日本も50%に到達するか否か」ではありません。小売全体にECが与える影響は、単純なシェアの取り合いだけではないのです。

 米国のEC化率は12%なので、店舗で商品を購入する機会は今でも多いと言えるでしょう。ただし、その商品購入の意思決定に関しては、まずオンライン上で情報を集め、購入する商品を決定した段階で店舗に行って購入するようになっています。しかも米国ではECAmazonを指し、Amazonが小売業界に全体に絶大な影響力を持つようになっています。これをアマゾンエフェクトと呼び、Amazonの規模が大きくなるにつれてデジタルに対応できない小売店舗が次々と閉店に追い込まれているのです。

米国におけるデジタルインフルエンス

 このように、「デジタルインフルエンス」という、デジタルが小売に及ぼす影響は、実に50%以上にも達しており、半数以上が商品購入の判断をWEB上で行うため、店頭で安売り販売を行ってもあまり効果がないという現象も現れてきています。

日本におけるジャンル別デジタルインフルエンス

 小売にとってデジタルインフルエンスは、ビジネスを行う上で非常に重要な要素となるため、日本のようにEC化率が低くても甘く見ることができない重要な指標となっています。

日本のECで伸びているジャンル。下に行くほどデジタルの影響が強い

 SB Payment Serviceの調査をもとに、日本のデジタルインフルエンスの傾向をジャンル別で見てみると、家電や書籍の影響力が強く、アパレルやコスメ、食品といったジャンルは比較的デジタルの影響が低くなっています。しかし、昨今は新型コロナウイルスの影響もあって、食品などのジャンルも大きく伸びているため全体的にデジタルの影響力が高まっていると言えるでしょう。

実店舗が苦戦する背景には不況の影響もありますが、米国ではAmazonが出てすぐにデジタルインフルエンスの影響が出始めていました。今やAmazonは実店舗に進出し、消費者はますますデジタルで購買決定を行うようになっています。EC化率が20%を超えると、小売ビジネスは苦戦して廃業や大量閉店が相次ぐと言われており、コロナの影響でその傾向が一気に加速しています。日本でも、早期にデジタル化を進めないと、知らないうちに負け組になってしまう可能性があります。では、日本の小売はどのように立ち向かうべきなのでしょうか。そのヒントは、日本の先を行く米国とさらにその先を行く中国から得ることができます。

 

海外と日本ではトレンドに約3年の差が

 オムニチャネルが日本でも大ブームになっており、少し前からセミナーや展示場など、さまざまな場所でその重要性が叫ばれています。そもそもオムニチャネルは、日本でその重要性が語られるようになる3年前に、米国の百貨店メイシーズ(Macy’s)が火付け役となりました。

 オムニチャネルがブームとして日本に来た時には、米国ではすでにブームは下火となっており、「まだオムニチャネルを意識しているの?」と言われるようになるなど、オムニチャネルは当たり前の事として扱われています。

 同じように、Instagramも日本ではマーケティングチャネルとして重視されるようになってきていますが、これも日本で流行し始める3年前に米国で注目されていました。トレンドによって幅はありますが、大体3年前後の差が日本と米国にはあるのです。

 無人コンビニで話題となった「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」も、日本はまだ本格的に導入されていませんが、米国では3年前に始まっているため、これから来るようになると予測することができるでしょう。

日本と海外のトレンドには約3年の差が生じている

 中国でもECにおいて日本の先を進んでおり、ECの未来を垣間見ることができます。たとえば、「SNSEコマース」の形で、「ウィーチャット(WeChat)」(日本のLINEのようなもの)の利用が広がっており、SNSに買物機能が付随していることが、中国では当たり前になっています。中国では、このSNSコマースが2017年に本格的にスタートしており、日本ではInstagramECの機能が最近実装されたところですので、こちらも23年のずれがあり、やはり中国が先を走っています。

日本でも今後競争が激化

 日本でもすべての小売ジャンルにおいてデジタルインフルエンスの影響が大きくなっており、日本の先をいく米国ではEC化率12%でありながらアマゾンエフェクトによって多くの小売店舗が閉鎖に追い込まれています。冒頭でも触れましたが、現在EC化率8%の日本においてもEC市場がまだまだ伸びることは疑いの余地はありません。

 日本は狭い国土に多くの店舗がひしめいています。人口1人当たりの店舗数は米国の6倍と言われており、今後はデジタルインフルエンスを含めた激しい競争が繰り広げられるでしょう。デジタル対応できているか否かが、勝敗の大きな要因になることが予測されます。

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも.取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。