ECを中心に活動するD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが、新しくて価値あるものを求める消費者と結びつき、一つのブームを生み出していることは、これまでの連載で説明してきたとおりです。彼らがそこからさらなるスケールアップをめざすには、やはりリアルに進出し、多くの消費者から支持される存在になることが正攻法といえるでしょう。短期連載「伴大二郎のリテールイノベーション最前線」第4回は、そんなD2Cブランドに門戸を開く、アメリカ発の「キュレーションメディア型店舗」(※)について解説します。※キュレーションメディア型店舗…さまざまなブランドの商品を展示し、それぞれのコンセプトや魅力、使い方などを伝える“情報発信”を主眼とした店舗
「b8ta(ベータ)」にD2Cブランドがこぞって”出展”する理由
キュレーションメディア型店舗には、ショーケーススタイル、ショップスタイル、さらには劇場スタイルと、さまざまなタイプがあります。ここでは、今夏、日本に上陸予定の「ベータ(b8ta)」を紹介します。
ベータは、テーブル1つぶんほどの広さの区画をメーカー側に月額で提供しています。ここを借りた企業が並べる商品を、消費者が自由に見たり触れたりできる、いわばショールームのような体験型店舗です。
ベータが注目を集める理由の1つは、オンライン広告の出稿と同等の効果や機能を有する点です。オンライン広告は、ターゲットを広げると費用がかかる一方、狭めるとリーチしにくいという一長一短があり、広告コストを多くかけられないD2Cブランドにとって費用対効果を出すのが難しい側面があります。
それに対してベータは、店内にカメラが設置されており、商品の前を通った人、立ち止まった人、触った人といったように、アクション単位でデータを取得できます。「貴社の商品は30代の女性がよく見ています」「貴社の商品を手に取った人は、隣の商品にも同時に関心を示しています」といった情報をメーカー側は得られるわけです。
同じくらいのコストをかけるのなら、誰に届くかを特定することが難しいオンライン広告よりも、商品をベータに“出展”したほうが具体的な反応を得られるからよい、と判断する企業が活用を進めています。とにかく触れてもらわないことには、その良さを理解してもらいにくいガジェット製品であれば、なおさらでしょう。実際、そういった商品がベータに集まっており、集客フックになっています。また、プロダクトの数が限られる企業にとっては、実店舗を構えるよりも、ベータの一画を間借りするくらいがちょうどいいという事情もあります。
ちなみにベータは、「フォーラム(forum)」という新しい業態にも挑戦しています。ロサンゼルスのメルローズ・アベニューという、日本でいえば原宿のキャットストリートのような場所に出店。ロサンゼルス近郊に拠点を置くローカルブランドの中からサステナブルなアパレル製品を厳選し、取り扱っています。
ロサンゼルスのローカルブランドには、優れた製品をつくっていながら大手百貨店に並ぶには至らないD2Cブランドが多い。ですから、それらに特化した業態を開発することには、大きな価値があります。
ベータは、このフォーラムを皮切りに、自社のビジネスモデルと店舗におけるトラッキング(購買行動の追跡)の仕組みをパッケージ化し、いろいろなところで展開しようと画策しています。
”ストーリーテリング”を重視する「ネイバーフッドグッズ」
さて、アメリカのキュレーションメディア型店舗のなかで、いま一番話題を集めているのが「ネイバーフッドグッズ(Neighborhood Goods)」という店です。現在、テキサス州に2店舗と、ニューヨークの人気買物スポット「チェルシーマーケット」にも店舗を構えます。
ここは、インスタグラムで人気のアパレルやコスメティックを主に取り扱う、いわば“インスタ映えするアイテムが集まるイケてるお店”的な打ち出し方をしています。ベータとの最大の違いは、商品を「ストーリーテリング」(各商品のコンセプトや開発側の想いなどを説明すること)できるスタッフを配置している点。店内の商品についてスタッフを介し顧客にフレンドリーに語りかけるというのが、ネイバーフッドグッズのコンセプトなのです。
商品の魅力を伝えるためのイベントやワークショップなども盛んに行うほか、専用アプリから商品を閲覧でき、説明が聞きたいと思ったら店員を呼び出すこともできます。これらの取り組みは、D2Cブランドが情報の伝わる経路や過程を大切にしていることに通じていると言えるでしょう。
キュレーションメディア型店舗が今求められる理由
こうしたキュレーションメディア型店舗はどんどん増えていますが、1つのビジネスモデルとして成立するものなのかはまだ定かではありません。ベータであればガジェット以外の製品は扱えるのか、ネイバーフッドグッズなら“ストーリーテラー”を担うスタッフの採用や教育をどうするのか、感度の高い都市部以外の場所でも成功できるのか、といったようにそれぞれに課題があります。
とはいえ、ここで押さえておきたいのは、キュレーションメディア型店舗が必要とされている背景です。
消費者の消費行動は、これまでの“漠然とした消費”から、“意味のあるものを買いたい”という流れに向かっています。しかし、情報過多にある現代では欲しい情報を見つけづらく、そのためインスタグラムのようなSNSを活用し、自分の興味の範囲内から情報を入手する人が増えています。これは、D2Cブランドにとっては届けたいメッセージが多くの人に思うように届かない状態と言えます。その打開策として出てきたのが、キュレーションメディア型店舗なのです。
これを1つの「広告」と捉えれば、消費者は知らないブランドと出会うことができ、ブランドはスケールアップするきっかけをつかめる。双方にとってメリットのある“媒体”になり得るのではないでしょうか。
コモディティ化の進む日本のリテールにとって挑戦すべき新業態だ
筆者は、キュレーションメディア型店舗は日本の市場にもマッチすると考えます。こういった新しいモノや情報との出会いは、「ショッピング」に本来あるべき楽しみ方だからです。D2Cブランドが活躍できる土壌がまだまだ少ない日本の現状を見ても、こうした環境を整備することは、商売の本質に適っていると言えるでしょう。
ただし、「キュレーションメディア型店舗」というコンセプトだけを掲げて、商品をやみくもに集めるようではセレクトショップと何ら変わりません。重要なのは、場所・モノ・ヒトを介して「顧客体験」を提供することです。これがないことには、各ブランドの商品力を生かしきれずに店自体がコモディティ化し、結果、消費者が求めるものとかけ離れて終わるでしょう。
このあたりの“仕組み化”は、小売側の腕の見せどころです。雑誌によって扱う製品や読者層が異なるのと同じように、「だから、わたしはこれを買うのだ」と消費者が強い購買動機を持てるように、店をつくりこむことが大きなカギを握るはずです。