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個人の魅力で商品を売り出す! 2023年のEC最新トレンド「P2C」とは

前回は、2022年小売業界に起こった3つの変化と、その影響について少し深掘りしてご紹介しました。今回は、2022年に水面下で起きた変化と、小売業界全体に影響を及ぼすようになったEC業界の観点から、予測される2023年の小売業界についての予測をご紹介しましょう。

Phiromya Intawongpan/iStock

2023年は店舗とデジタルがうまくミックスする

 2022年にDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速したことで、デジタルが小売に影響を及ぼす「デジタルインフルエンス」の重要度はさらに高まりを見せていますが、その反面で単純なEC化率には大きな影響はありませんでした。ただし、その数字だけを見て、実店舗への回帰が起こるという見方には少し注意が必要です。

EC化率に変化がなくとも、それが実店舗への回帰につながるわけではない

 実店舗における「触る」「試す」といった体験が小売業界において重要なのは従来どおりですが、そこにプラスして「知る」「比較する」といったデジタルを活用した消費行動はある程度定着しているといってよいでしょう。しかし、日用品や定期的に購入する食品など、シンプルに決済して受け取るだけの商品においては、デジタル上で完結する機会が増えるようになっています。

 このような流れから私は「2023年は店舗とデジタルがうまくミックスする年になる」と考え、とくにデジタル接客について大きな変革が起こる年になると予測しています。

デジタルを通した「人からの接客」が重要に

 オンライン・オフラインともに「人からの接客」は根強く、アパレルなどを中心としてWeb接客もさらに進化することが予測されます。そんなWeb接客にもさまざまな方法がありますが、Zoomなどの配信ツールを活用してリアルタイムで接客を行うパターンもあれば、単純に作成した動画をYouTubeにアップしてコーディネートなどをオススメするものもあります。とくに最近では、商品の紹介文を読んでもらうだけではあまり消費者の欲求を掻き立てるような効果が望めなくなっており、人から勧められる方が圧倒的に効果的なのです。

 そのような文脈から、2023年に注目すべきキーワードが「P2CPerson to Consumer)」とライブコマースです。ECではこれまで、テキストと静止画像で情報発信するという方法が主流でしたが、動画で人が説明した方が圧倒的に分かりやすく伝えられ、情報量も多いことに売り手も買い手も気付き始めています。

ECでは動画コンテンツの重要度が増している

 これは、TikTokInstagramなどの動画系SNSが普及し、消費者が動画から情報をインプットすることに慣れてきたことが一因です。すでにAmazonの商品ページでは、多くの写真とテキストにレビューがあるという従来の形式から、最近では動画による情報伝達が急増しています。そして、実際に動画コンテンツのあるページの方が、商品の人気も圧倒的に高くなっているのです。

大手企業も個人の力を頼るように

 動画で商品をアピールする場合、商品を紹介する人の「魅力」も売れ行きに大きく影響します。たとえ同じ商品でも、説明する人のタレント性やキャラクターなど人の力に左右される部分が大きいのです。P2Cではこのポイントが勝ち筋となることをすでに理解している企業は、SNSのフォロワーが多い人を逃さないように囲い込んでおり、よい人がいれば積極的な採用を進めています。

 P2CPは「個人」という意味です。以前は「個人VS法人」という図式で、影響力のある個人が大手企業の脅威となり売上を奪うこともありましたが、今は法人が個人の力を利用し始めるようになりました。

大手企業も個人の力に注目している

 同様に、D2CDirect to Consumer)は、スタートアップが限られた資本と人員で売上を大きく立てる手段の1つとして流行しましたが、今では大手がスタートアップを買収するほか、個人を抱え込むことによって売上拡大をめざしています。最初は「資金が潤沢な大手vsスタートアップ」というのがD2Cの構図でしたが、今では大手が本格的にP2CD2Cに乗り出して、個人やスタートアップを飲み込むようなかたちになりつつあるのです。

 以前にも「有名なYouTuberが靴を何万足完売」といった驚異的な数字の事例が話題になりましたが、おそらく2023年にはそのようなP2Cを利用する大手が増えてくるでしょう。

誇大広告の終焉と2023年以降に求められるモノづくり

 ライブコマースが流行り始めているのもP2Cと同じ理由です。静止画によって消費者のモチベーションを上げるには、すでに限界値が見えています。昔は、売れるキャッチコピーやサムネイルを作成できる「売り文句が上手い人」が重視されていましたが、こうした能力の重要性はだいぶ薄れてきました。結局どのような商品でも、言葉次第でなんとでも表現できてしまうため、消費者も「これは嘘だろう」と疑い始めているのです。

 このような、いわば「広告臭」はどんどんメッキが剥がされており、「盛った画像がよい」という「インスタ映え」の考えも大きく変化しています。ゴテゴテに飾り立てた「嘘っぽい感じ」はすぐに嫌われてしまうため、むしろ盛らないことを意識する人が増えました。動画では画像より盛ることが難しいので、自然とよい塩梅に調整されるようになります。従来のようなセールスのためのコピーである「〇〇が売れる」「変わる」「痩せる」といったものも、すぐに疑問の目で見られてしまうため、今後はよりクリーンで誠実な伝え方が求められるようになるでしょう。

 このような世界観では、やはり商品そのものの魅力が重要で、これまで大手が量産してきたような単一化された商品だけでなく、地方にある面白いモノ作りを続けているブランドにも、伝える力次第で光が当たるようになります。2023年は、そういった中小ブランドの魅力が適正な価格で届くような「場づくり」も重要になるでしょう。