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シップス、EC売上100億円へ!自社EC比率も現在の20%から倍増を目指す秘策とは

セレクトショップのシップス(東京都/三浦義哲社長)は、今期11月にもスマートフォン専用アプリ「SHIPS 公式アプリ」をリニューアルして自社ECを強化、ユーザビリティ(使い勝手)を向上させ、ワントゥワンマーケティングを促進させる。同社に愛着を持つロイヤルカスタマーを増やす。前期(2022年2月期)のEC売上高は100億目前となり、現在約20%を占める自社EC比率を中期的には4割程度に引き上げたい考えだ。

2018年にサイト統合後、EC売上が成長軌道に

公式サイトトップ

 シップスは基幹レーベル「シップス」(メンズ、ウイメンズ、キッズ)とエントリー客向けの「シップス エニィ」の2つのレーベルを軸にセレクトショップを展開。現在全国に約80店舗を構えている。20222月期の売上高は2115052万円。

 EC事業は当初ZOZOTOWNを始めとするいくつかのECモールサイトに出店するだけだったが、2010年に自社ECをスタート。現在の展開ECサイトはZOZOTOWN、自社ECに加え、タカシマヤファッションスクエア、iLUMINEMAGASEEKamazon、マルイウェブチャネル、アンドモール、Rakuten Fashionと広がっている

 自社EC2017年にECサイト構築支援会社ecbeingのシステムを使用する形で刷新。2018年には自社ECとコーポレートサイト、オウンドメディアのメールマガジンサイト「SHIPA MAG」を統合し、メディアECサイト「シップス公式サイト」(https://www.shipsltd.co.jp/)として集約した。

 2018年のサイト統合によって、それまで3つのサイトに分散していた情報発信、集客、販売を同時に行うことで、回遊性はもちろんコンテンツマーケティングの付加価値が高まり、EC売上はコロナ初年度の売上急伸の反動減に見舞われた前期を除き、基本的には対前期比3040%の伸びで成長している。

自社ECを顧客体験のハブに

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 コロナ禍による外出自粛や商業施設の休業・営業時間の短縮などをきっかけに、リアル店舗の売上が苦戦を続けていることもあり、前期のEC化比率は結果的に約5割に迫った。

 「リアル(店舗の売上)は落ちたが、だからこそリアルならではの体験価値を顧客満足度につなげ、売上に生かすことが重要。いかにリアルとデジタルを融合させるかが事業戦略の鍵になっている」と営業本部 販売促進部の萩原千春部長は話す。

 特に自社ECは顧客接点の面でも「ターゲットや顧客体験のハブになる存在としてしっかりと構築・推進する」(萩原部長)として、今後さらに強化する方針だ。

 同社ECサイトのOMO(リアルとデジタルの融合)施策で特徴的なのは2020年に導入した「取り寄せ・試着サービス」だ。客がよく行くリアル店舗に欲しい商品がなくても、倉庫にさえ在庫があれば、ECサイトから希望の商品を取り寄せて、店で商品を見て、試着してから購入できるサービスである。

 例えば店頭に自分に合うサイズがなかった場合でも、その場でECの仕組みを使って申し込み、店舗に商品が届いてから試着し、購入することができる。もちろん試着後に購入しないこともできる。

 また商品がなくても支払いはその場で済ませ(店頭決済機能)、自宅に配送することもできる「店頭決済サービス」も実装した。店頭で決済すれば、テナントとして入居する商業施設の割引などの販促施策が適用され、商業施設のクレジットカードを使えばポイントもたまる。

 ECで注文・決済し、商品は店舗で受け取れる店舗取り寄せサービスは他社でも採用している会社は多いが、決済まで含めた自由度を持たせることで、客の利便性は一気に高まる。

スタッフなど多様なコンテンツをOMO化

スタッフのコーディネート紹介画面

 販売スタッフなどさまざまなコンテンツのOMO化も実現している。同社は昨年、自社ECサイトの検索エンジンの機能を大幅に高めた。サイト内で商品だけでなく、何でも検索できるようにしたのだ。

 従来は商品の検索しかできなかったが、リニューアル後は店舗、スタッフ、スタイリング、ニュースなどさまざまなキーワードでの検索が可能になった。例えば「渋谷」という言葉で検索すれば、渋谷店の展開商品、渋谷店にまつわるニュース、渋谷店スタッフのスタイリングなどが表示される。人名でもヒットする。

 これによって「買物だけではないさまざまな発見や感動を、検索を通してお客さまに提供できるようにした」(萩原部長)

 同時に商品だけでなく、スタッフ名などさまざまなコンテンツで「お気に入り」登録ができるようにした。例えばお気に入りのスタッフが新たなコーディネートを投稿したらお知らせが通知されるなど、「お客さまの『好き』に対するお知らせができ、ワントゥワンな情報価値を配信できるようになった」(同)という。

 その結果、お気に入り登録が多くされている人気のスタッフのコーディネートがよく見られるようになり、コーディネート経由売上は飛躍的に高まり、スタッフのOMO化が加速した。

 いずれのコンテンツ経由の売上も非経由売上に比べコンバージョンレート(顧客獲得率)は1.4倍以上になったという。

自社ECを強化、将来は4割の比率へ

営業本部 販売促進部の萩原千春部長

 課題はデータ活用の基盤づくり。システム面での基盤とそれを活用するための体制面での基盤を両面で固めることだ。

 今後はロイヤルカスタマーの創出に注力する。店舗を含め新規客の売上は年々厳しくなっており、他業種を含めた競争環境の中でシップスに愛着を持つ顧客を増やしたい考えだ。

 「共感や感動がないと定着しファンになってもらうのは難しい」(萩原部長)として、11月にスマホアプリをリニューアル。ロイヤルカスタマーに近い人に向けた①ワントゥワンマーケティングの強化、②店頭でのユーザビリティの強化による体験価値の向上、③同EC価値の向上を目指す。

 また前述のコンテンツOMOを通じて獲得できるデータが、ファーストパーティデータ(企業が収集・保有している顧客や社内データ)を含めて増えているため、MA(マーケティングオートメーション)などでデータ活用を強化する。「たまったデータを活用することで、店舗とのユニファイドコマース(統合された商取引)につながる」(同)とみている。

 今期のEC売上高は100億円の大台に乗る見通しだが、売上よりも利益を重視。ECの利益水準は好調の見通しだ。また自社ECをさらに強化し、ECで最大の売上高となっているZOZOTOWN経由の売上を維持したまま、現在約20%を占める自社ECを、中期的には現在のZOZOTOWNの売上高と同程度まで引き上げたい考えだ