メニュー

次は介護業界?バニッシュ・スタンダードのオンライン接客支援がコスメや家電業界で広がる事情

販売員向けオンライン接客支援アプリ「スタッフスタート」を運営するバニッシュ・スタンダード(東京都/小野里寧晃社長)は、アパレル以外の業界への同アプリの普及を推進する。すでに家具・インテリアのニトリやコスメの資生堂、スポーツ用品のアルペンなどの企業には導入されているが、その他の小売業にも拡大。さらに検討している株式上場後をめどにサービス、福祉、介護といったサービス業界にも参入したい考えだ。小野里寧晃社長がダイヤモンド・チェーンストアオンラインのインタビューで明らかにした。

コスメや家電などあらゆる小売業に拡大

スタッフレビュー機能では販売員が評価スケールを使って商品特徴を伝えられる

 バニッシュ・スタンダードは店頭の販売スタッフが自社商品を使用したコーディネート提案の画像を自社ECSNSにアップすることで、共感した客が店舗やECで購入するという画像投稿アプリ「スタッフスタート」で急成長。現在ではアパレル企業の多くが導入している。利用スタッフ数は2021年時点で約103000人に上る。

 今後はアパレル業界に限らず、ECサイトで接客するあらゆる小売業に広げたい考えだ。コモディティ(日用品)は除く。そのためアパレルの接客におけるコーディネート提案に代わる接客の特性を見極め、システム開発につなげる。

 小野里寧晃社長がアパレルに次ぐ有望市場とみているのがコスメと家電だ。コスメではすでに資生堂やコーセー、オルビス、ポーラなどが導入している。肌質の違いがあり実際にメイクしてみないと分からないといった難しさもあるが、一方で、スタッフスタートの持つ動画機能などを使えば、オンライン上でも化粧する過程が見えて分かりやすいといった優位性もある。家電ではヤマダデンキへの導入が決まっている。

 「業態によって接客の特性は異なる。各業界でお客さまに突き刺さるオンライン接客の方法をきちんと組み立てていけば、絶対に当たる」(小野里社長)とみて、業界ごとにカスタマイズを進めているという。

サービス業界にも参入、将来は海外進出も

 

まとめ機能では販売員がテキスト、画像、動画などを使って特集記事を作成できる

 さらに小売業以外の業界への参入ももくろむ。「サービス、福祉、介護といった給料水準が低い業界をできるだけ早く助けに行きたい。世界にスタッフスタートを浸透させて、世界中の現場の人たちが報われるような世の中にしたいと思っている。株式上場を検討しているのにはそういう狙いもある」と小野里社長は海外進出も視野に入れた構想を練っていることを明かす。サービス業界への参入は上場を果たした後をめどにしている。

 スタッフスタートは専用アプリを通じて、自社ECサイトやSNSなどで店舗スタッフのオンライン接客を可能にするサービス。単にコーディネート提案の画像投稿ができるだけでなく、スタッフ一人一人の投稿コンテンツを経由したEC売上やPV(ページビュー)がどれだけ発生したかという成果が可視化されるため、本部はその実績を店舗やスタッフ個人の評価に役立てることができる。

 店舗で働く販売スタッフのEC売上への貢献度が可視化されることでスタッフのモチベーションが高まり、成果給などの形で給料に反映されれば、他業界に比べて低いとされるアパレルをはじめとする小売業やサービス業の賃金水準も改善され、現場のスタッフの社会的地位の向上にもつながる。

 「一番大事なのはスタッフの力とやる気。オンライン接客ができる時間や環境を経営者と共につくっていかなければいけない。スタッフスタートは単純なツールではない。スタッフや消費者、経営者、店舗責任者、商業施設などステークホルダーと協力し合いながらスタッフを生かしていくという文化をつくっていきたい」と小野里社長は話す。

スタッフスタートを基盤に新たな事業開発も

小野里寧晃社長

 バニッシュ・スタンダードは20113月に設立。当初はアパレル企業のECサイトの制作から開発、運用、プロモーション、配送、商品撮影、採寸、原稿制作まで全業務を請け負うフルフィルメント事業を手掛けていた。あるときアパレルの店長から「ECサイトは店からお客さまを奪い売上は下がるし、店舗の人員も減らされ、業務が増えるのに給料は上がらない」と言われたことをきっかけに、販売スタッフのEX(従業員満足体験)を高めるスタッフスタートを開発し、20169月にリリースした。

 当初は見向きもされなかったが、画像投稿が簡単にできる利便性だけでなく、導入企業で同アプリ経由の売上が上がり、スタッフの評価ができるメリットが認知され、2018年から急速に普及。多くのアパレル企業が導入した。

 2016年当時は数億円の負債を抱え、経営危機に陥っていたが、2018年から業績は急回復。20223月期の売上高は前期比約50%増になったという。

 今年7月にはファッション通販サイト「楽天ファッション」でコーディネート投稿機能の連携を開始。イオンモールの一部では店舗スタッフによるコーディネート提案を館内のデジタルサイネージで配信する取り組みも始めている。

 今後の成長戦略を考える上では、スタッフスタートに頼った「一本足打法」ではなく新規事業の開発も必要とも考えられるが、小野里社長は「半分考えていて、半分考えていない」と話す。「スタッフスタートは多くの業界で活用できる。コーディネートを取り扱っているわけではなく、人にフォーカスしたサービスなので、例えばリクルート事業もやろうと思えばできるし、スタッフと一緒にBtoC(消費者向け取引)事業もできる。スタッフスタートというプラットフォームの上でさまざまな展開ができると考えている」として、スタッフスタートを基盤にしながら、他業界への参入やその仕組みを生かした事業開発を進めることで成長するという青写真を描いているようだ。