DX推進企業に学ぶ3大トレンド
生成AIの活用はさらに浸透
日本国内では小売・流通業界における生成AIの活用が浸透しており、25年はさらに普及が進むと予測する。具体的な業務適用事例としては、「チャットボットによる顧客対応・カスタマーサービス」「EC上でのパーソナライズされた商品提案」「チラシやメールなどのマーケティングコンテンツの生成」「在庫管理と需要予測」「価格設定業務への適用」「バーチャル試着とカスタマイズ」などが挙げられる。
海外ではさらに高度なAIの活用が進んでいる。ウォルマート(Walmart)はエヌビディアと協力し、店舗や物流センターをバーチャル上に再現する「デジタルツイン技術」を導入。この技術によって、店舗や流通センターにおけるレイアウトの最適化などを進めることで、顧客体験の向上につなげている。なお、この技術はすでにウォルマート1700以上の店舗で活用されている。
また、生成AIはバーチャルインフルエンサーの分野でも広がっており、ソーシャルメディアや広告キャンペーンで生かされるケースも増えている。代表的な例がアメリカのスタートアップ会社ブラッド(Brud)が開発したバーチャルインフルエンサーのリル・ミケーラ(Lil Miquela)だ。
リル・ミケーラはInstagramを中心に活躍するファッションモデルで、25年1月現在、約250万人のフォロワーを持つ。ラグジュアリーブランドのキャンペーンに登場するほか、音楽活動も行い、多くのファンを獲得している。高度なCG技術と生成AIを駆使し、リアルな人間に近いビジュアルと独自のストーリー性を持たせることで、親しみやすさを生み出し、人々の興味を引きつけているのだ。
急速に拡大するリテールメディア市場
他方、国内のリテールメディア市場も近年急速に拡大している。市場調査会社のデジタルインファクト(東京都)とデジタルマーケティング事業を行うCARTA HOLDINGS(東京都)の調査によると、リテールメディアの23年の市場規模は3625億円だったが、27年には9332億円にまで拡大する見込みだ。
また、電通グループ(東京都)は、25年の世界の広告市場において、リテールメディアの総広告費用が21.9%増加すると予測している。とくに小売業者が自社商品以外の広告を掲載する「ノンエンデミック広告市場」の規模は、28年には、24年の約3倍に当たる1693億円にまで拡大すると予測されており、リテールメディア市場の成長をけん引している。
こうした市場の成長を背景に、小売業界でもリテールメディアの拡大に取り組む潮流が見られる。たとえば、ドラッグストア大手のマツモトキヨシ(千葉県)は、19年にメーカーと共同で広告事業「Matsukiyo Ads(マツキヨ アド)」を開始し、販促活動を展開している。
マツキヨ アドは、マツモトキヨシがGoogleの広告ソリューション(YouTube広告・検索広告・ディスプレイ広告など)を通じて、メーカーの広告を配信する仕組みだ。さらに、広告を見たユーザーが店頭で商品を購入したかどうかをデータとして集計することで、効果を可視化できる。
このように、リテールメディアは、広告のデジタル化と購買データの活用を通じて、小売業者・メーカー・消費者の三者に新たな価値をもたらしている。小売業者にとっては、新たな収益源の確立と購買データを生かした効果的な販促につながり、メーカーにとっては、ターゲットに最適な広告配信が行える手段となる。
消費者にとっても、自身の興味・関心に合った情報を受け取る機会が増え、購買体験の向上につながる。こうした背景から、小売業界におけるリテールメディア市場は25年も引き続き拡大し続けることが予測される。
さて、ここまで24年から25年初頭のデジタル推進の動向を見てきたが、今後事業環境の変化がさらに加速し、DXの重要性はいっそう高まっていくだろう。加えて、トランプ政権の発足や東アジアの地政学的問題など、不確実性の高いリスクも無視できない。
こうした先行きの見えない状況のなか、小売業はDXをどのように推進し、事業変革につなげていくべきか。本特集では、その手掛かりとなる事例や戦略を紹介する。