DX推進企業に学ぶ3大トレンド
※本記事はダイヤモンド・チェーンストア3月1日号別冊「流通テクノロジー」の一部記事を再編集したものです。文中の所属・肩書等は発行時点のものです。
近年デジタル・トランスフォーメーション(DX)という概念が広く浸透し、あらゆる産業でビジネス革新をめざしたデジタル活用の動きがますます活発化している。
小売業界においても競争激化や人手不足、物流問題など厳しい環境に直面するなか、購買データの分析やAIの活用を推進し、これらの課題解決につなげようとする動きが広がっている。
既存のビジネスモデルをデジタルの力で変革し、持続的成長にいかにつなげていくべきか。本特集では国内外のデジタル先進企業の最新戦略をもとにDXの現在地とめざすべき道筋を分析する。
デジタル・ネイティブからフィジタル・ネイティブへ
2024年から25年初頭の小売・流通業界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の動向を振り返ると、注目すべき3つのトレンドがある。「AI搭載ロボットの進化」「生成AI活用の広がり」「国内リテールメディア市場の成長」である。

25年初頭に米ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」では、AIの活用が「デジタル領域」から「物理的なデバイス」への適用に広がっていることが鮮明になった。これまでAIは主にソフトウェアやデータ解析の分野で使われてきたが、今回のCESでは、自動車やロボットなどの物理的なデバイスにAIを搭載し、動作を最適化・自律化する事例が増えていた。
このような動向を、アメリカの半導体メーカーのエヌビディア(NVIDIA)最高経営責任者であるジェンスン・ファン氏は「フィジカルAI」と定義し、さらにその発展のために自動運転やロボット向けのシステムを無償で提供することを発表した。
小売・流通業界に目を向けると、すでに倉庫、在庫管理、物流、清掃、接客などの領域でロボットは幅広く使用されている。今後は、これらに搭載されているAIの進化が加速することで、ロボットが対応できる業務の種類が増え、作業の精度や効率も向上していくだろう。
たとえば、オーストラリアのスーパーマーケット大手コールス(Coles)は、24年10月にシドニー郊外に最新のロボットを活用した物流拠点を開設した。この施設は、コールスが英国のネットスーパー最大手オカドグループ(Ocado Group)と4億ドルを投じたパートナーシップを結び、開設された。
その目的は、AIと高度なロボティクスを活用し、オンライン注文の処理をより正確かつ効率的にすることである。約8万7000㎡の施設内では、700台以上のロボットが、商品の仕分けやピッキングを行っている。ロボットは「ハイブ」と呼ばれる中央のシステムで管理されており、AIがそれぞれの動きを調整することで、効率よく作業を進められるようになっている。
このようにAIとロボティクスの統合は小売・流通業界の効率化と顧客サービスの向上に大きく寄与しているのだ。
フィリップ・コトラーは、近著「Marketing6.0 The Future is Immersive」のなかで、デジタル社会が「デジタル・ネイティブ」世代中心の時代から、「フィジタル・ネイティブ」世代中心の時代へと徐々に変化していくことを指摘している。フィジタル・ネイティブとは、AIやIoT、スマートデバイスとともに育ち、デジタルとリアルの境界を意識せずに生活する世代を指す。
こうした変化を後押しするのが、AI技術の進化だ。AI搭載ロボットやスマートアシスタントの普及により、デジタル技術はさらに身近なものとなり、フィジタル・ネイティブ世代の価値観や行動様式は今後社会に浸透していくものと考えられる。コトラーが指摘するように「フィジタル・ネイティブ」が社会の主流となる日も、そう遠くないだろう。