青果流通サプライチェーンの変革に挑む! ある地方卸売市場の挑戦

堀尾大悟
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市場健全化のカギを握る「出荷情報」

須崎青果社長
須崎青果 代表取締役の市川義人氏

 青果卸売事業者の淘汰・再編が進む中、須崎青果における青果物の取扱金額は、「この20年で20億円から80億円まで増加した」(市川氏)。環境変化にさらされながらも、積極的に取り扱う品目と産地を拡大し、競争力を確保し続けてきた。

 しかし、その一方で、市川氏は青果流通業界を取りまくもう一つの問題を指摘する。「販売先との取引の主流が、従来のせり売り(競売)から相対取引へと移り、価格形成メカニズムが働きにくくなっている」

 大規模小売店舗法(大店法)が廃止され、代わって大規模小売店舗立地法(大店立地法)が施行されたのは2000年。出店規制が緩和されたことが、GMSなど大型商業施設が台頭する契機となり、いわば販売先のバイイングパワーが増大した。そのことで、従来の「1対n」のせり売りから、個別の販売先と「1対1」の相対取引が増えたのだ。現在の青果流通市場においては、相対取引が市場で行われる取引の約9割を占めているといわれる。

 その結果、これまでせり売りによって果たしていた市場・青果卸売の価格形成機能が弱まっている。

 例えば、ナス1箱の相場価格が5,000円のところ、ある大手スーパーマーケットは「お宅からずっと買い続けるから4,000円にしてくれ」とディスカウントを要求する。大事な得意先だけに、卸売事業者としてもその提案をのまざるをえない。一方で、生産者にとっては販売先のディスカウント圧力で利幅が狭まると、「お宅とは取引するだけ損だ」と卸売事業者から離れてしまう。そうなると販売先への安定供給もできなくなる。こうしたジレンマを全国の卸売事業者は抱えているのだ。

 その問題へのアプローチとして、市川氏がポイントに挙げるのが「出荷量」に関する情報だ。

「出荷量が予測より多いと、販売先に無理を言って購入してもらうために買いたたかれるおそれがある。逆に、少ないと販売先はよそから調達する必要が生じ、収益に影響が出る。販売先が安心して市場から仕入れができる環境をつくることが、安定した相場の維持につながるし、そこに卸売事業者の存在意義がある」

 青果物の日々の出荷状況や、1週間先、1カ月先も含めた見通しを正確に把握し、供給予測の精度を高めることが、市場の健全化を促し、取引や価格の適正化につながる。結果として販売先にも生産者にも利益を還元できる。生産者、市場、販売先の3者がWin-Winの関係になるためにも、出荷量の把握が重要なカギを握るのだ。

 そうした考えのもと、須崎青果では以前より、取引のある生産者から日々出荷量の情報を集約し、供給予測に役立てている。

 しかし、同社に登録している生産者は約3,000者。常時アクティブに取引のある生産者だけでも700者もいる。これまでは、同社の社員が1件1件架電して出荷情報を聞いており「社員1人あたり100件は電話しており、その対応だけで午前中がまるまる潰れてしまう」状況だった。

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