小売業界において、もはや空前の世界的ブームとなっているリテールメディア。識者はこの状況をどう分析し、今後の小売市場にどのようなインパクトを与えると見ているのか。これまでリテールメディアのプラットフォーム開発事業に携わり、現在はイトーヨーカドーネットスーパー(東京都)でシステム開発とマーケティング業務に従事する望月洋志氏に語ってもらった。
国内小売のDXを加速させる起爆剤に
アマゾン(Amazon.com)やウォルマート(Walmart)をはじめ、米国の小売業界で先行するリテールメディアの動向がとくに2022年後半以降、日本の小売業界でも注目されるようになり、23年に入るとリテールメディアへの取り組みを本格化する動きも目立つようになってきた。
小売企業とメーカーとの間でリテールメディアに関する商談も始まり、この動きがメーカーにも伝播しつつある。また、リテールメディアをサポートするソリューションやサービスも多様に増えてきた。とくにここ1年でリテールメディアに関わるプレーヤーが急増し、市場全体が盛り上がってきた感がある。
リテールメディアというと「広告収益による売上へのインパクト」がまず浮かぶかもしれない。しかし国内の小売市場においてはその前段階として、「リテールメディアの取り組みを契機にデジタル活用が加速する」というメリットが指摘できる。
日本の小売業界は米国に比べて寡占化されておらず、個社の資本力が小さい。デジタル領域に精通する人材も投資余力も少なく、それが小売のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の障壁になっている。その点、広告収益という定量的でわかりやすい成果が見込まれるリテールメディアは、多種多様なデジタル施策の中でも参入メリットが明確で手を付けやすい。施策がうまく回るようになればデジタル領域全体への投資意欲が一気に加速し、小売業のデジタル化がもっと進む可能性がある。
結果として、小売業のビジネスが多角化し、多様な人材が集まる業種へと進化していくことも考えられる。これについては詳しく後述したい。
リテールメディアが「愛の減衰」を食い止める
さて、リテールメディアの前提として理解しておきたいのは、広告事業ではなくメディア事業であるという点だ。ただ広告を一方的に配信する“広告枠”ではなく、リテールメディアは新たな“顧客接点”なのである。店内だけでなく、アプリやウェブサイトなど店の外でも顧客とつながりを持ち、商品の価値や魅力をいつでも伝えられる──。これがリテールメディアの革新性なのだ。
とりわけ昨今の値上げ局面で、顧客に価格ではなく価値を伝える
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