セブン‐イレブンの真のデータ民主化生成AI基盤「AIライブラリー」とは?
データを武器に変えた5つの例
ここからデータを武器に変えた5つの事例を紹介する。
事例❶自然言語によるデータ検索
最も活用されている機能の1つが、自然言語によるデータ検索だ。たとえば、「麹町駅前店の常温のお弁当との併売商品ランキングを教えて」という問いかけから即座にデータが表示される機能がある。自然言語で語りかけることでSQLが自動生成され、セブンセントラルから表形式で出力される。つまり、生成AIによって、SQLが書けなくてもデータを抽出し、活用できる世界——「データの民主化」が実現したのだ。
事例❷SNS分析による商品開発支援
生成AIによりSNS上の「褒めているのか、皮肉なのか」といった微妙なニュアンスの判別が可能になり、従来の機械学習では難しかった感情分析の精度が向上。既存商品の改良や販売戦略立案に生かしている。
事例❸新商品開発の効率化
新商品開発プロセスも生成AIによって一変した。従来は商品企画後に試作品をつくり、撮影するまで商品イメージを共有できなかったが、現在はマルチモーダル生成AIに商品コンセプトを入力するだけで、瞬時にビジュアルが生成される。イメージを早期に共有できることで議論の質が劇的に向上し、商品開発全体のスピードアップにつながっているという。
加盟店への情報展開も大幅に効率化した。新商品の原材料やセールスポイントなどの情報を、生成AIが企画書から抽出し正確に構造化。従来は手作業で情報を整理し、複数回のチェックを経て配信していたため、時間がかかる上に転記ミスのリスクもあったが、正確な情報をリアルタイムで全店舗に届けられるようになった。
事例❹リスク分析と先手対応
SNSでの言及をリアルタイムに分析し、リスクの兆候をいち早く察知。さらに踏み込んで、取るべき対応までAIが示唆できるようになった。ほかにも「この商品に対する再販の要望が急増している」なども早期に察知できるようになった。
事例❺IR資料の多言語翻訳と分析
「92ページのIR資料を20秒で多言語翻訳し、ビジネス的な示唆まで得られた」と西村氏。英語だけでなく、中国語やアラビア語など多言語対応も進み、セブン‐イレブンのグローバル展開を支えている。
AIとの対話で価値創造へ
「生成AIを活用し、人と人が普通にしゃべるようなかたちで、データを利活用できる状態をめざしたい」——西村氏はこの言葉で同社のAI戦略の本質を表現した。
さらに西村氏は、未来に向けた挑戦として災害対応におけるAIの活用も視野に入れる。過去の経験や対応マニュアルをデジタル化してAIに学習させ、有事の際に最適な行動を示唆するシステムを構想しているという。
西村氏は最後に、セブン‐イレブンの企業理念「明日の笑顔を共に創る」に触れ、「加盟店、お客さま、物流にかかわる皆さんが笑顔でいるためには、ITが使いやすく便利であることが重要」と強調。「最新技術を活用しながら『明日の笑顔を共に創る』ことに貢献していきたい」と締めくくった。
酒井真弓(さかい・まゆみ)
●ノンフィクションライター。IT系ニュースサイトのアイティメディア(株)で情報システム部、イベント企画を経て、2018年フリーに転向。広報、イベント企画、コミュニティ運営、イベントや動画等のファシリテーターとして活動しながら、民間企業から行政まで取材・記事執筆に奔走している。日本初Google Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」のアンバサダー。著書に『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)、『ルポ 日本のDX最前線』(集英社インターナショナル)など









