2019年10月から始まった経産省による「キャッシュレス・消費者還元事業」が20年6月に終了した。これにより小売事業者はどのような影響を受けたのか。キャッシュレス決済のメリット・デメリットや、今後の見通しを解説してもらう
最大のメリット
は販促効果
グッデイはキャッシュレス・消費者還元事業が始まったタイミングで、「PayPay」や「LINE Pay」といったQRコードのキャッシュレス決済を導入しました。それにより、「キャッシュレス消費者還元事業対象加盟店」に加わり、お客さまへの5%還元の対象となったほか、QRコード決済導入時に必要な読み取り機械の購入補助を受けることができました。
もともとグッデイではクレジットカード決済を導入しており、キャッシュレス決済比率が17~18%だったところ、還元事業が始まってから一気に40%近くになりました。還元事業が終わった今は30%前後に落ち着いています。
どのように利用されているのかを簡単に見てみますと、クレジットカード決済は1000円以上の買物が多いのに対し、QRコード決済は1000円以下が中心です。種類別ではPayPayのほか「d払い」「auPay」といった携帯キャリアのサービスの利用率が高いです。
キャッシュレス決済導入の最大のメリットは販促手段として使えることでした。還元事業によるキャッシュバックのほか、キャッシュレス事業者によるキャンペーンの効果が大きいです。これは小売事業者による持ち出しが不要の販促になります。
グッデイでは、キャッシュレス決済導入により売上の約5%を押し上げる効果があったとみています。もちろんキャッシュレス決済比率が増えることによって手数料も増えることになりますが、それを上回る集客効果がありました。
とくに効果が大きいのが10~30代の若年層です。キャッシュレス決済を導入しているかどうかというのがお店を選ぶポイントにもなっているようです。自社専用のポイントカードをつくるよりも安価に販促手段として利用することができます。
ほかには、お客さまの利便性を高められること、直接現金のやり取りをする機会が減るためコロナの感染リスクを減らせることといったメリットも挙げられます。
オペレーションと
手数料の問題
一方、デメリットもあります。
1つはオペレーションの問題です。キャッシュレス事業者は営業トークで「オペレーションが楽になる」と言いますが、現状は異なります。100%キャッシュレスになると、現金を扱わず、レジ締め作業がなくなる、という恩恵は考えられますが、100%キャッシュレスになることはありません。むしろ「どの決済手段を使いますか」とお客さまに確認する工程が増えるため、オペレーションの負荷は増えています。
もう1つは手数料の問題です。導入初期の頃はクレジットカード決済よりも安かったのですが、これから上がっていくことが想定されています。今でもすでに諸外国と比べると高い水準にあります。
オペレーション負荷、手数料のことを考えると、導入に後ろ向きな企業が多いのもわかります。キャッシュレス・消費者還元事業が終わった今、これから導入を考えている企業は販促としてのメリットと手数料のデメリットを見極める必要があります。
今、私は経産省による「キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会」の小売事業者メンバーとして参加していますが、キャッシュレス決済が定着するにはまだまだ解決しないといけない課題が多くありそうです。