調剤ビジネスは国の方針もあり、薬の受け渡しを主とする「対物」から、ヘルス&ウェルネス領域のコンサルテーションを含めた「対人」業務への変化を迫られている。調剤業務が複雑化・多様化するなか、業務効率や顧客利便性の向上につながるデジタル技術の活用が、調剤業界でも進み始めている。「日本の医療体験を、しなやかに。」をミッションに掲げ、医療・調剤関連サービスの開発を行うスタートアップ企業カケハシの取り組みから、調剤のデジタルトランスフォーメーション(DX)の“最前線”に迫った。
「行く理由」のある薬局をデジタル化で創造する
「調剤薬局にとって今重要なのは、患者に『その薬局に行く意味』をいかに見出してもらえるかだ」。こう語るのは、カケハシの中川貴史代表取締役CEOだ。
調剤薬局は大きな転換期にある。医薬分業制度を追い風に成長を続けた国内の調剤薬局数は、2019年度末時点には前年度より0.9%増えて6万171施設となり、6万の大台を突破した。それと同時に、微減を続ける日本の人口10万人当たりの薬局数は増加傾向にある。
一方で、これまで門前薬局が莫大なシェアを有していた業界を取り囲む垣根は低くなった。本特集でここまで触れてきたとおり、調剤を併設するドラッグストア(DgS)が増え、食品スーパー(SM)やコンビニエンスストアなど異業態による調剤関連事業への参入も進んでいる。
このように調剤薬局市場は競争激化の一途をたどっているが、収入源である調剤報酬の見直しが政府によって進められている。20年9月に施行された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(通称:改正薬機法)では、服用期間中の継続的な薬学的管理と患者支援が義務づけられた。また、20年の調剤報酬改定では調剤技術料の点数が概ね引き下げられ、服薬指導に適用される薬学管理料の点数は引き上げられた。オペレーションの効率化を図らなければ薬局経営は厳しさを増す一方だ。
調剤薬局はこれまでの「成長期」から「淘汰の時代」にフェーズが変わったと言えるだろう。調剤薬局の中には生き残りをかけ、専門性を高める薬局もあれば、OTC医薬品(一般用医薬品)や健康食品などの販売へと業容を広げる薬局もある。調剤事業は、多様化の様相を呈するようになってきた。
冒頭の中川氏が言うように利用客にとって「行く意味」のある、選ばれる薬局でなければ、ボーダレスな競争を勝ち抜くことは難しい。調剤薬局は既存の業務やビジネスモデルを変革することが求められているわけだが、そこでカギになるのはデジタルの力である。中川氏は「薬局が変革するうえで、デジタルの活用は大きな助けになる」と強調する。
薬歴作成の電子化で大幅な時間短縮に
調剤薬局の経営は
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