第1回 日本でオンライン診療・服薬指導が普及しない理由

郡司 昇
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ヘルスケアDX背景②オンライン診療・服薬指導

服薬指導のイメージ
オンライン診療の対象拡大をきっかけにオンライン診療及びオンライン服薬指導の事業が徐々に拡大してきた。 i-stock

 もう1つの大きな背景はオンライン診療・服薬指導である。2018年、2020年の診療報酬改定によるオンライン診療の対象拡大をきっかけにオンライン診療及びオンライン服薬指導の事業が徐々に拡大してきた。さらにコロナ禍で非接触対応のニーズが高まると同時に、時限的措置として初診も含めたオンライン診療の原則解禁が行われた。

 その後、「経済財政運営と改革の基本方針2020」において、オンライン診療・服薬指導について利用者を含めた検証を行い、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築するとされた。

 米国ではオンライン診療の利用を経験した人の割合がCOVID-19流行前の14%から57%に上昇し、慢性疾患患者の場合77%となっている。また、患者の4分の1以上が、COVID-19前からオンラインの方が快適だと述べており、パンデミックが終了した場合でも遠隔医療を使用し続けることが予想される。

https://www.healthcarefinancenews.com/news/telehealth-expected-drive-29-billion-healthcare-services-2020

 中国上海市の復旦大学付属中山徐匯雲(クラウド)病院が、公立病院として初めてオンライン専門病院として2020年2月に認可された。これはコロナ禍で突然始まった取り組みではなく、2016年から試験運用を行い、4年間で延べ180万人以上が診察した結果である。中国医療の大きな課題として町医者の信頼性問題から大病院への一極集中がある。これを解消するDXとして取り組んできた結果である。

 さて、日本ではどうだろうか?

 厚労省がまとめた資料によると日本で電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数は2020年10月末で全体の15%に留まる。さらに「受診歴のない患者に初診から電話・オンライン診療を実施した」医療機関数は、2020年9月実績で404件に過ぎず、全体のわずか0.36%である。オンライン診療が普及しなければ、その先工程であるオンライン服薬指導も進まない。

https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000690548.pdf

オンライン診療が日本で進まない理由

ヘルスケアのイメージ
なぜ、日本ではここまでオンライン診療が進まないのだろうか。大きな要因として、医療機関の収入と効率の問題がある。 i-stock

 なぜ、日本ではここまでオンライン診療が進まないのだろうか。大きな要因として、医療機関の収入と効率の問題がある。

 まず、導入コストである。オンライン診療システム自体はSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)が多く、導入負荷は小さいものの、電子カルテ端末はセキュリティのため通常のインターネット回線には繋いでいないことが多い。このための端末と回線を用意しなければならない。

 最も高いハードルは、診療報酬が対面診察よりも低い点である。診療科によるが、患者1名あたり千円以上診療報酬が少なくなるのであれば、積極的に取組む医療機関が増えないのも無理がない。政府の規制改革会議において、オンライン診療を推進したい政府に対して、日本医師会が慎重姿勢なのは、これが最大の要因と考えられる。

 対面の方が望ましい疾患・病体もあるので、全てがオンライン診療に向かうということはないが、少なくとも他国のようにオンラインでも同等もしくはそれ以上の診療報酬にしない限り普及は進まない。

 効率については、医療機関が処方箋を患者に郵送する手間がかかる。これに関しては、電子処方箋が普及すれば解決する。電子処方箋は偽造されにくいなどの特性もあり、ヘルスケアDXの鍵となる要素である。

 大学病院など大きな医療機関では、予約をしていても患者が長時間待たされることは日常茶飯事である。患者としては大きなストレスだが、医療機関の立場になると途切れなく効率的に診察ができているということでもある。患者の待ち時間というバッファがある状態とも言える。

 合間にオンライン診療が入るとなるとどうだろうか。オンラインだけ時間通りに開始する場合は、医師の対応が非常に困難になる。現状をデジタル化すると、対面であれオンラインであれ患者側を長時間待たせるという仕組みになるが、これをD Xと言えるだろうか。

 上述したオンライン専門のクラウド病院と比較するまでもない。クラウド病院と通常医療機関の2種類に分かれて特化した方が、全体最適になるであろう。

 小売業におけるキャッシュレス決済が現金会計と併用して、結果として現金管理が残ることで、決定的な効率化にならないことと似ているように思われる。

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