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第3回 欠品を出さないDX

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買い物リストを作って店にやって来たものの、お目当ての商品が売り切れだった――。消費者にとっては小売チェーンへの信頼が落ち、店舗側にとっては商機の損失となる欠品は、小売分野における永遠のジレンマだ。なぜ品切れが起こり、どのようにすれば防げるのか。また、不幸にして欠品が生じた場合に、どうすれば顧客の心をつかむ代替品の提言ができるのか。米国では、この分野においてディープラーニングを使った「欠品AI」と呼ぶべきデジタルトランスフォーメーションが進んでいる。現状と課題を報告する。

不正確なデータと
運営の不効率が問題

 米小売業界では、2020年3月の新型コロナウイルスの感染爆発以降、顧客のパニック的なまとめ買いとオンライン注文の急増により、トイレットペーパーやウェットワイプ、消毒液などの店頭での欠品が目立つようになった。同年4~5月にかけて米リテールフィードバック・グループ(Retail Feedback Group)が行ったアンケート調査では、実に49%の消費者が小売店における欠品を経験している。

 ただし、パンデミックによる買いだめ、巣ごもり消費、宅配需要の急伸はチェーンストアやメーカーが事前に予想できなかった性質のものだ。また、人心が落ち着くにつれて生活必需品の不足は数か月で解消された。

 しかし、コロナ禍による品切れ現象は、欠品対策という平時からの小売業界の課題を改めて浮き彫りにすることとなった。米小売コンサルティングのレベラー(Labellerr)でそうした問題に取り組むプニート・ジンダル氏は、「店舗でほしいものが売り切れであった場合、品物にもよるが、消費者の最大25%は代替品を選ぶことなく買い物を続ける一方、最大43%はお目当ての商品を入手するため近隣の別店舗へと向かう」との研究を紹介した。

 その上でジンダル氏は、「小売業者は欠品により、その特定商品だけでなく、顧客がついでに購入予定であった他の商品の販売機会も失っている。これは推定で総売上の4%、大手チェーンストア1社では年間4000万ドル(約44億1272万円)の損失となり得る」と指摘する。

 さらに、品切れは一時的な損失でなく、恒久的なロスとなり得る。マッキンゼー(McKinsey & Company)の調査では、パンデミック中の品切れによって米消費者の46%がひいきのブランドから離れ、その内50%は別ブランドに定着したとされる。このように、欠品は顧客満足度を低下させ、ブランドへの忠誠心も鈍らせるのだ。

 前述のジンダル氏は、①在庫データが信頼性と正確性に欠ければ問題の根源となり、②現場運営が機能せず、まとまりのないものであるならば、あるべき場所に商品が置かれないため、補充もうまく実施できず、③管理部門の発注や補充入力のエラーなど書類上の誤りが拍車をかける、と問題点をあぶり出した。

 こうした一連の課題、特に販売現場における非効率性を緩和するものとして米国では、人工知能(AI)の活用を中心とするデジタルトランスフォーメーションが導入されるようになったのだ。

店舗内の通路を走り回って在庫スキャニングを行い、データを取るロウボット(LoweBot)

在庫管理と需要予想に
AIならではの出番

 米小売業界には欠品に関する経験則がある。たとえば、商品棚が空になる確率が高いのは金曜日と土曜日であり、セールで安売りされる商品が品切れになる確率は正札より75%高い、などだ。しかし、これらの「法則」はリアルタイムのビッグデータに基づいたものではないため不完全で、より正確で信頼性が高い在庫管理と需要予想が求められている。

 こうした中で注目されているのが、ホームセンター大手のロウズ(Lowe’s)がサンフランシスコ地区11店舗で導入した「ロウボット(LoweBot)」と呼ばれるロボットの導入だ。ロウボットは広大な店舗内で客の探し物が置かれた商品棚への案内役を務めるだけでなく、店内を走り回って商品棚のスキャンも行い、データをリアルタイムで収集して本部データセンターにワイヤレスで送信するというスグレモノだ。また、間違った場所に置かれた品物や、帳簿上の販売価格と表示価格の不一致まで発見するという。

 一方、ロウボットは優秀だが、大面積で通路幅も広い店舗でしか使えないという欠点がある。このため、マサチューセッツ工科大学(MIT)やウォルマート(Walmart)などは、人手による在庫確認に代わる「ドローン在庫スキャニング」を研究している。プライバシーや安全問題などでまだ店頭における実用化はされていないが、倉庫や配送センターから普及していきそうだ。

 AIを使った在庫管理を実施するには、商品の最小管理単位であるSKUが正しく表示されていることと、スキャンが正確であることが必須条件となる。「洗濯洗剤の残数が少なくなってきている」「紙おむつに欠品が生じた」という状況を把握し、補充や注文などの適切なアクションを取るためだ。こうした場面こそ、優れた画像認識や販売のパターンなどを総合して瞬時の判断ができるAIの出番と言えるかもしれない。

オンライン注文を受けたウォルマートのピッカーは欠品の際、AIによる代替品提案を受ける

落胆させない
欠品AIの能力

欠品AI の実力は、「客を落胆させない能力」で決まる。品切れは消費者にとってもチェーンストアにとっても損失であるから、そもそも売り切れを生じさせない在庫管理と需要予想が中心となるのは当然だ。その管理の補助的役割としての代替品提案にもAIは活躍している。

ウォルマートにおいて、オンライン注文を受けた食品・日用品が欠品していた場合に、顧客の好みに合わせてAIを使って代替商品を推奨するシステムを稼働させたことは広く報じられた。たとえば、チェリー味のヨーグルトが品切れであった際、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーなど他のフレーバーを提案して、商機を逃さない工夫だ。

この場面においてAIは大きな力を発揮できる可能性がある。なぜなら、ウォルマートでは毎週2億人が店舗とオンラインで15万種を超える食品や日用品を購入しており、ビッグデータの量と質には圧倒的なものがあるからだ。客の好みは多種多様であり、間違ったおススメ商品は逆効果になる恐れもあるため、ブランド、嗜好、価格、サイズ、種類など何百もの変数をAIが深層学習することで問題解決につなげようとしているのだ。

とは言え多くの場合、代替品とは妥協の産物である。そのため、業界関係者からは、「AIは代替品提案ではなく、欠品を生じさせない在庫管理と需要予想にこそ使われるべきだ」との声も聞かれる。

こうした中、欠品AIのキーワードは、①ビッグデータ活用、②リアルタイム分析、③サプライチェーン強化としてまとめることができそうだ。