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ニューノーマル時代の米国小売業界 パラダイムシフト戦略 ~テクノロジーが支える新消費生活

リテールストラテジスト 平山幸江

店舗はEコマース支援の場へ

 米国では、3月13日に非常事態宣言が発令された。以降、「コンタクトレス(非接触)」「ソーシャルディスタンス」に配慮した生活が強いられ、消費者の購買行動が大きく変化した。ここでは小売業者による新たな動き、サービスの具体的事例を紹介する。

 原則、外出禁止となったためオンラインショッピングの利用が増加した。小売業者は店舗の役割を見直し、eコマースを支援する場として機能させている。

 アマゾン傘下のホールフーズマーケットは、マンハッタンとサンフランシスコにある2店を、オンライングローサリー販売のための配送センターとして活用する。ここを拠点に、従業員は台車を自転車で引っ張るなどして配達している。

 ミクロフルフィルメントセンター(小型の自動配送センター)開発企業テイクオフ・テクノロジーズ社は、アルバートソンズ、ストップ&ショップを含む5店にミクロフルフィルメントセンター(930㎡)を併設した。ロボットが約1万5000アイテムの商品をピックアップ。10~20人の従業員がeコマース出荷業務に携わっており、平均5分以内で60オーダーを処理する。

 フランス発のスポーツ用品チェーン、デカトロンは2019年4月、サンフランシスコに4370㎡の米国2号店をオープン。全従業員はiPhoneで店内決済、顧客サービスや在庫管理を行う。コロナショックによりeコマース需要が急増したのを受け、店舗、eコマース、倉庫の在庫管理機能を統合したほか、利用者がネット注文した商品を店舗で受け取るカーブサイド・ピックアップ業務にも対応している。

 中小食品スーパーでは、フューチャー・プルーフ・リテール社によるモバイルセルフレジを導入する動きが広がっている。来店客はスマートフォンで商品をスキャンし、退店前にQRコード1クリックすると買い物が完了。盗難防止にも配慮されている。

 このほかアマゾンは、スマートフォンすら不要の手のひらの生体認証決済を実験するなど、新たな動きが見られる。

デジタルを活用してヒューマンタッチを創出

 コンタクトレス、ソーシャルディスタンスが求められたことで人々は孤立、コミュニケーションなど「ヒューマンタッチ」の要素を求める傾向が強まった。これを受け、小売業は新たな顧客サービスの提供に注力している。

 ホームファニシングを扱うクレート&バレル社は、コールセンターにグラッドリー社が提供する「ラディカルパーソナル」というプラットフォームを導入した。これは顧客のプロフィール、購買歴、好みなどの情報を見ながら、チャットやテキストメッセージにより接客できるもの。クレート&バレル社ではプラットフォーム開設後、最初の1週間で10万ドルもの売り上げがあった。

 ロウズはストリーム社とARを活用したライブチャットサービス「ロウズ・フォー・ウロジョブサイト」を共同開発、6月から建設業者に提供している。同サービスを取り入れた業者は、商業施設や家庭など現場に出向かなくても、顧客から問題個所の写真を撮影してもらえば、ライブチャットでその写真に絵や文字で解決策を提示できる。

 ジーキット社は、バーチャルな試着を実現するシステムを開発、ウォルマート、メーシーズなどへの導入を進めている。すでに採用したアパレルを販売する企業では、返品率が10%減少、購入率は20%上昇した。

 今回、紹介した事例を手掛ける企業は、新型コロナウイルス拡大前からデジタル分野に投資していたため、結果としてニューノーマル時代への対応が可能となった。日本でも今こそ中長期視点で経営戦略を見直す必要性は高まっている。

各プログラムの詳細

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