テンセントの時価総額がアリババを抜き中国一に! 躍進の背景と正しい見方

2020/08/04 05:55
    菊谷信宏(GloTech Trends)
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    テンセント最大の評価ポイントは”時間消費型コンテンツ”

     次に確認しておきたいのが、ユーザーのアプリ上での滞在時間である。テンセント陣営が強みとする事業領域には、SNS、ゲーム、エンターテインメントなど、ユーザーが一定の時間を費やす”時間消費型コンテンツ”において優位性があることがわかる。

     ビッグデータ解析企業のクエストモバイル(QuestMobile)が発表したデータによると、インターネットの総利用時間に占めるアリババ陣営のコンテンツの滞在時間は10.1%にとどまるのに対し、テンセント陣営の滞在時間はその約4倍となる42.3%を占める。つまり、中国人はインターネット上で過ごす時間のうち、実に半分近くをテンセント関連のコンテンツで過ごしているということである。ユーザーとの接触時間において圧倒的な優位性を持つテンセントが、コロナ禍において「巣ごもり経済」が拡大する中で再評価され、株価の動向にも好影響を与えたのは不思議なことではない。

    テンセントはゲームやSNSなど時間消費型コンテンツを豊富に有している
    テンセントはゲームやSNSなど時間消費型コンテンツを豊富に有している

     テンセントの20年度第1四半期(201~3月)の業績を見ても、同社がコロナ禍をうまく乗り越え成長していることが確認できる。とくに、「王者栄耀(Honor of Kings)」などの人気ゲームを中心としたゲーム分野の営業収益は対前年同期比31%増、業界全体として苦戦が伝えられる広告分野においてもソーシャルメディアからの広告収入が同47%増となるなど絶好調だ。

     もっとも、アリババの株価もコロナ禍において上昇傾向にあるが、1月末時点から7月24日時点までの期間で比較すると、アリババの株価は約20%増だったのに対し、テンセントは40%以上上昇している。繰り返しになるが、ユーザーとの接触時間が長いコンテンツを多く有するテンセントが、コロナ禍という緊急事態下でも安定した評価を得ていることがわかる。

    株価の単純比較ではなく、「経済圏の総合評価」が重要に

     ここまで両社の株価、時価総額を比較してみたが、実際には単純に比べるだけでは両者の実力を推し量ることはできない面もある。

     まずテンセント経済圏には、テンセントが大株主である京東、美団点評、拼多多などが含まれ、このほか滴滴(didi)や快手(Kuaishou)などのユニコーン企業も属しており、巨大な経済圏を構築している。テンセントの真の実力や影響力を把握するためには、こうした複雑に入り組んだ経済圏全体を俯瞰することが重要である。

     一方のアリババ経済圏も同様だ。7月20日には決済サービス「アリペイ」を有するアントグループ(旧アントフィナンシャル)が香港および上海(科創板)の証券取引市場への重複上場計画を公式発表し大きな話題となった。アリババの100%子会社としてスタートした同社は、現在ではアリババとの資本関係は存在するものの独立した企業運営を行っている。そのため、アリババ経済圏の金融部門の重責を担いながらも、アリババ株式の単独評価ではアントグループの評価額は含まれない。同社が今後2市場で上場することになれば、アリババグループ全体の企業価値はさらに高まるのは間違いないだろう。

     結論としては、テンセント、アリババがいずれも、自社を中心とした巨大経済圏としての成長をめざすフェーズに入った今、両社の株価を単純に比べることの意義は大きくない。各社の経済圏全体を的確に捉えて総合的に評価し直すことの重要性が高まっていると言えるだろう。

     

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