展望2020:第4次産業革命で日本企業は勝てず=中島RIETI理事長

ロイター
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中国の「ロボカップ」の様子
経済産業研究所(RIETI)の中島厚志理事長は、「第4次産業革命」が世界経済の成長に重要とする一方、人材への投資や研究開発投資を怠っている日本企業はこの革命で「勝ち残ることはできない」と指摘。写真は自律型ロボット同士がサッカーの試合を行う「ロボカップ」の様子。2019年5月17日、中国の天津市で撮影(2020年 ロイター/Jason Lee)

[東京 5日 ロイター] – 中島厚志・経済産業研究所(RIETI)理事長は、世界経済の成長鈍化や保護主義に走る時代から脱却するには「第4次産業革命」が期待の一つとみている。ただ、人材への投資や研究開発投資を怠っている日本企業は、このままでは第4次産業革命で「勝ち残ることはできない」と危機感を示した。

中島理事長は「日本はIT投資が鈍化する一方で、非正規雇用比率が高まり続けており、企業は生産性や競争力を高める設備投資よりも安くて柔軟な労働力確保を優先させているともみえる」と指摘。業績が過去最高水準を記録する中、賃上げや研究開発投資を重視するよう、収益分配の在り方を見直すべき局面にきていると述べた。

安倍政権が力を入れてきた春闘だが「90年から経常利益は2.4倍になったが、ひとりあたりの名目賃金は横ばいだ」とし、物価上昇に対して割り負けていると指摘。賃上げの原資を確保するためにも、企業は、適正な販売価格への値上げを実施しなければならないとした。

製造コストの何倍の価格で販売できているかをみる「マークアップ率」。欧米企業は2010年から急速に上昇しているものの、日本は緩やかにしか上がっておらず、格差は急激に拡大している。これは、米国では、グーグルやアマゾンなどの高収益率企業GAFAが誕生・成長している一方、日本では、そうした企業が誕生していないことが背景にある。「日本はIT技術やビッグデータの活用に出遅れ、付加価値の高い製品・サービスを生み出すことに劣後している。足元で日本も若干上がっているが、これは、1980年の米国と同水準になっただけ」という。

アベノミクスでは、円安方向にある為替相場が企業を支えてきた。しかし、中島理事長は「為替は各国のインフレ差。円高ならばチャラになるものが、円安にあることで、日本が貧しくなっている」と話す。1ドル=100円を割り込むと企業から「厳しい」という声が出る状況が何年も前から変わっていないとし「企業の競争力がまるで上がっていない。王道は、研究開発によって付加価値を付け、値上げを可能にすることだ」と述べた。

2020年、世界経済は底入れ

世界経済については「底入れは近いし、来年は底入れする」との見通しを示した。懸案だった米中貿易摩擦で一定の進展があったほか、ITサイクルやロボットの出荷台数が底入れし、ドルは実効為替レートでドル高になっていることなどを挙げた。

ただ「貿易問題が景気に影響を与えるのは数カ月遅れる」とも指摘。貿易問題の一定の進展を織り込んで上昇している足元の株式市場は「少し早過ぎる。来年の春過ぎまで、実体経済への目立った影響は出ない可能性がある」と、調整する可能性があるとの見方を示しした。

日本についても「来年は比較的良い」とみている。為替相場が膠着する中では世界経済の減速が名目輸出額に影響しており、世界経済が底入れすれば、日本の輸出も回復に向かうと述べた。

東京オリンピック・パラリンピック自体の直接的な効果は限定的で、前後の実質国内総生産(GDP)押し上げ・押し下げは0.1―0.2%にとどまると指摘。ただ、同時開催のイベントを効果的に行うことで、訪日観光客の滞在増につなげることができれば、さらにGDPを0.1―0.2%押し上げる可能性があるとした。

例えば、2012年のロンドンオリンピックの際には、オリンピック開催の1カ月前からパラリンピック閉幕までの12週間にわたって「ロンドン2012フェスティバル」を開催し、3万3631の催しで2020万人の集客を図ったという。

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